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1巻

 長期連載がもたらすセールス的な問題などから(大長編は途中からの読者が付きにくい)、第2部と称して巻数を1にリセット、タイトル変更で仕切り直しての「バキ」スタート。でも内容は続編。他にも、刃牙と書いてバキと読ますのは無理があると感じたのか、主人公範馬刃牙の表記も範馬バキにほぼ統一。「ほぼ」としたのは、11巻のオリバのせいで。

 世界各国から集められた猛者による最大トーナメントを終え、次なる対戦相手として登場するのは5名の最凶死刑囚。ニトログリセリンがある日を境に結晶化し始めたエピソードを切り口に、シンクロニシティという言葉が説明されます。

一見無関係に隔絶された物質や生物 果ては思想が 地球規模で同時同様の変化を起こす

世界各地にて、接点を持たないと考えられる死刑囚5人が、同時期に同じ言葉を残して脱獄をし、東京へと向かいます。東京もいい迷惑です。そしてその言い残した言葉がコレ。

敗北を知りたい。

でました。傲岸不遜な台詞です。自分は負けたコトがないという発言です。負けって何ですかあ〜〜〜? これだけで今回の対戦者の強さがよく分かります。

 ただ、恐らくこの2部で描こうと作者が考えているテーマは、この台詞のさらに先にあるであろう考え方、「敗北を知っている者は強い」ではないかと思っています。失敗を経験したコトがない者はギリギリでのふんばり/耐性が弱いんだ、的な意味合いで。

 この1巻では死刑囚5人の顔見せがてらに脱獄シーンが収録。どれもこれも凄い身体能力を表現しています。この時は敗北する絵が浮かばないほどでした。

 アメリカ/ドリアン...絞首刑を耐え切っての脱獄。巨漢マッチョキャラながらも首だけで自分の全体重を支えていたコトになります。最大トーナメントではジャックも刃牙のギロチンチョークで浮きましたが、結局耐え切れずにそこで敗北していました。この1点だけでもドリアンの凄さが伝わります。

 イギリス/ドイル...電気イス執行、泡を吹き、目から血を流しつつも耐え切り脱獄。目隠しをしたまま相手の顔面に拳を放ち、銃を歯で受け止める芸当を披露。

 ロシア/シコルスキー...ミサイル発射口を改造した刑務所の100メートルもの垂直の壁をよじ登って脱獄。壁に出来ているわずかな錆や傷を手掛かり足掛かりにロッククライミング。ついでとばかりにガーレンを屠って東京へ。ガーレン、最大トーナメント後も穴掘ってたのか。

 アメリカ/スペック...海底刑務所である潜水艦から脱獄。水深200メートル、必死に泳いで5分はかかると言われる距離を泳ぎ切る。5分間の無呼吸運動(ただ5分間息を止めてるのではなく酸素を過剰に消費する運動が可能)という身体能力を発揮。

 日本/柳龍光...ロケット砲もハネ返す特殊強化ガラスからなる懲罰室から脱獄。手の平をぴったりとガラスに張り付け、極限の真空状態を作り出し簡単に破壊。「この地球上で最も強力な毒ガスが何かワカるかね」という謎の台詞もあり。警備の耳に息を吹き込み、逆側の耳から脳みそを吹き出すという、肺活量/力の異常さを思わせる荒技も披露。

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 ドリアンは最終的に擬態/人間ポンプ/アラミド繊維/催眠術/中国拳法最高峰「海王」といったキャラ付けがされてました。1巻の脱獄時には尋常ならざる身体能力を感じたのですが、その後は非常にパッとしない闘いを繰り広げていました。絞首刑時に、本当に首吊りに耐え切ったのか怪しくも思えますので、勝手にこの脱獄シーンの可能性を考えて遊んでみます。

1.催眠術で刑務官たちを騙していた。

 実は執行台に昇ってなかったとか、もう10分経過したと感じさせて5秒ぐらいで降ろさせたとか。でもドクターは後から入ってきて時間を計測していたので術をかけるチャンスがないですね。首吊って死なない人間っていうのも「思い描かない」コトだから、催眠術で騙してたのはやっぱ無理か。

2.こっそりアラミド繊維で負担を首以外にも散らしていた。

 足の指あたりで、階段を昇る時にあちこちに引っ掛けていたとか。でも落下のガクーンという感じから無理がありますね。重力まかせに落ちてる感じ。だとしたら足の指、繊維で切れそうだし。そもそもアラミド繊維を事前に取り上げられていないのはやっぱ変だし。腹の中に隠していたとか。それでも取り上げられるか。

 結局のトコロ、描写のままストレートに「絞首刑を耐え切った凄いヤツ」なんだろうけど、東京上陸後に見せた戦法と一致しない感じがするなあ。


2巻

 序盤の不良とバキとの喧嘩、読み返してみたらかなり面白いんですけど。ナイフ使い登場時のナイフの捌きっぷりや、バキが一気に距離を詰めてワイヤー使いをあしらったシーンや(ワイヤーの長さを目算してどれぐらいお互いの身体に巻き付けた上で指でひょいっと絡めれば分銅が相手の頭にヒットするのか瞬間的に計算したものと思いたい)、その直後に背後に詰めていた不良を一蹴(一蹴するコマ内で同時に、いつの間にか不良が近付いていたのも表現)、何だかテンポもいいし面白いです。

 んで、ここでスペックが登場し、バキとの初顔合わせ。バキは手を出さず一方的にやられてます。バキがスペックを相手にしながら考える「アイツとソックリだッッ」。直後に場面転換して勇次郎のストレッチシーンになるので、「アイツ」とは勇次郎のコトでしょう。ここで死刑囚のレベルが範馬勇次郎にかなり近いものと思われたのですが、最近のチャンピオンを見た感じ何だかそうでもなさ気。アイツってチカチーロのコトだったのかも。

 スペックはこの後警察に連行されますが、留置室をねぐら程度に考えていつでも出入り可能な奔放ぶりを発揮。

 一方で柳は達人渋川の元を尋ね、茶をすすっています。二人に面識があり、しかも過去達人の左目を奪ったのが柳であるコトが判明。

 神心会館本部ではドリアンが道場破り。ドリアンは独歩狙いみたいです。克巳を軽くあしらい、烈も小馬鹿にして逃げ去りました。烈との闘いは作者的に迷ったんじゃないでしょうか。死刑囚の強さを見せるには烈をも圧倒的に屠った方がいいんですが、烈クラスのキャラをも簡単に上回っては後々死刑囚倒すの誰になるんだ?的煩悶。


3巻

 最初の2話では範馬バキの体力測定にまつわるややおふざけエピソード。教師はバキが無意識リアルシャドー状態に陥ったコトまで読み取ったのでしょうか。体にいきなり負荷がかかるのはちょっと恐いですね。細胞レベルまで擦り込まれてるなんて。実戦中にこの状態に陥ったらどうするんでしょうか。

 そしてシコルスキーの到着で死刑囚5名が遂に全員日本上陸。地下闘技場にて白格闘サイドとの顔合わせ。死刑囚、全員がバキに興味津々です。

白側がバキ/独歩/烈/花山/渋川。

黒側がドリアン/ドイル/スペック/シコルスキー/柳。

 独歩は山ごもりをしていた様子で無精髭を生やしています。作者も描き慣れてなかったのか、ドリアンに不意打ち仕掛けたり手首落とされたりしてる時ヒゲありません。ここでドリアンの武器としてアラミド繊維が登場。今書いた通り、独歩は左手首を切断されました。あんなに強かった烈が驚き役に回ってるのが連載当時かなりいやでした。男塾で言えばファラオ並みのランクダウンを感じました。

 独歩、斬られた方の手でドリアンにストレートをぶち込み逃走。その時の群集の一人の台詞「ハゲがいねェぞ!!」。全国100万人の神心会のトップも一般知名度はなし。倉木マイのファーストアルバム購入者4人に1人が門下生の計算になる神心会のトップなのに。ハゲの一言です。

 一方、シコルスの前に顔をきざまれた猪狩が部下を引き連れて登場。包帯を顔に巻いて「さっきはどうも」。手回し早いです。


4巻

 前半はシコルスと猪狩の闘い決着。誰も猪狩が勝つとは思っていません。もちろんシコルスの勝利です。バーベルをブンブン猪狩にぶつけるシコルス。ファミコンソフト「忍者ハットリくん」のボーナスゲームを髣髴させる狂気の絵です。ちくわに紛れてバーベル投げるな。今にして思えば後にシコルスに忍者のような瞬間移動能力が付けられるのはこれが伏線だった模様(ウソ)。

 最後はシコルスの十八番切り裂き一本拳で猪狩の頸動脈をザックリ。このシーンではシコルス小便をしながらザックリいってるのが凄い。下半身を弛緩させたままです。

 後半ではバキと梢江のデート。今となっては非常にうんざりする二人のデートシーンはここから始まった。それを尾け隙をついて襲い掛かろうとするスペックですが、花山登場。梢江は全く気付かないまま危機は去った、という演出で非常にかっこいいんですが、足音とかで気付かないのか?

 ここから始まる花山VSスペック、この一戦が死刑囚編ベストバウトになりそうな予感。死刑囚がどこまでやれるのか読者として見えてなかったし、内容も二転三転する良質の出来です。

 スペックの無呼吸連打を喰らう花山。無呼吸連打は格ゲーにおける乱舞系の技ですね。花山は相変わらず防御しません。そして例の超ぶん殴りを敢行しスペックをぶっ飛ばしました。この巻では花山、遂に一言もしゃべらないまま終了。


5巻

 無呼吸連打を大量に打ち込まれてのダメージも1発で帳消しにする程の花山のぶん殴りです。スペックに更にもう1発喰らわせて、ようやく一言。「まだやるかい」。虚勢を張るスペックにもう1発。んで、「まだやるかい」。これを幾度か繰り返すシーンがカッコよすぎ。この「まだやるかい」はかなりの名言で、当時バキとはまるで無関係の雑誌の表紙にも『まだやるかい? BY花山』なんてコピーがついていたのを見掛けました。確か風俗関係の雑誌です。

 ここでスペック、銃弾を花山の口に突っ込み下から花山のアゴを叩き上げてブリッツファイア状態に。花山、顔面大爆発。でも死なない。口、鼻から煙をもうもうと上げ、「まだやるか...」。そして渾身のぶん殴りでスペックを街灯まで殴り飛ばします。

 花山がスペックを警察に「みやげだ...」と突き出してから更に戦闘続行。スペックが復活します。スペック、街灯まで飛ばされた時、口にパンチを叩き込まれて首の後ろまでめり込んでたんですが、死なないのかアレ。烈みたいに頸骨自ら外したりしてたんでしょうか。

 ここで決着が着くのですがもう花山が凄すぎ。いま再読して昔は密度あったなあと実感してます。作者自身の画力の変遷もあって、握撃で爆ぜたスペックの腕の描写が生々しい。エピローグで明かされるスペックの実年齢97歳も決まってて、このバトルは死刑囚編のみならずバキシリーズ屈指の名バトルです。

 巻の後半は学校にまで乱入してきたドイルから逃走したバキの前に柳龍光登場。地下闘技場でトーナメント優勝者と知られた瞬間死刑囚から一斉に注目を浴びてたバキです。みんなバキ狙いです。その柳に背後から達人渋川登場。『バキを尾けるスペック→花山』といい、この頃は『人気者のバキの前に死刑囚登場→別の白格闘家乱入』という基本形を設けようとしてたのでしょうか。

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 第40話「人間の英知」、ですか。体力測定で満点を取ったバキがテスト中ボケーっとしてて教師に注意を受けてるトコロ。

 オートバイよりも人は早く走れない。パワーボートよりも早く泳げない。ハンググライダーのように跳べない。世の中を動かしてるのは筋肉ではなく頭脳だと語ってる部分。ここで教師がカール・ルイスの跳躍力でも2階のこの教室までジャンプは出きないと、トドメのセリフを言ったトコでドイルが地上からジャンプして教室に飛び込んできます。

 このシーンは人間の身体能力そのものの限界を語る教師の言葉を、ドイルの力を見せるコトで一気にひっくり返してる印象ですが、最近の改造人間ぶりを見てると、ドイルは教師の言葉側の存在みたいですね。ここにきてまたひっくり返りました。


6巻

 まず前半ではバキ&達人VS柳のバトル。主人公サイドが2人というシチュエーションです。ここでバキは柳に敗北するのですが、その際に柳が用いたのが「この地球上でもっとも強力な毒ガス」

その答は酸素。

 本来大気中に含まれてる酸素の比率は21%、その酸素含有率を6%にまで低下させた気体をほんの一息吸ったトコロで人は意識を失う。最強の毒ガスが酸素って答は何か腑に落ちません。「酸素が足りない気体」が最強の毒ガスって説明になってますから。よく耳にする何気ない気体の名前を出して驚かそうという、その場のインパクトだけっぽいです。

 後に「空道」は柳オリジナルでなく師匠が存在する組織だったものだと分かります。そして掌に真空を作り上げるというのも毒手や鞭打と並んでその「空道」の技の一つと判明します。柳は刑務所にいたコトを「対人用として造り変えるにはこの上ない環境」と語ってます。というコトは「空道」での「掌の真空化」は本来対人用の暗殺術ではなく演舞の類いなのかなあ。

 後半は柳に敗北したバキと他4名がミッチャンの屋敷で反省会。そこに登場するのがドリアン。ここから長いドリアン編の開始です。ダーティになった克巳の攻撃を喰らい丸焼けになるドリアン。もちろんその程度じゃ死にません。そして克巳をダーティ化させた師匠として加藤清澄登場。ドリアンは飲み込んでいた手榴弾を取り出し徳川邸爆破し逃走。滅茶苦茶です。

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 今回の死刑囚編におけるテーマの一つに「ルールに縛られない何でもありの闘いとは言っても、実際にはどこまでがありなのか」ってのがありそうです。取り分け、武器の使用をどう捉えるか、また、武器とはどこまでを指すのか。花田は地面を自分の武器と称しているし、烈の爪や髪の毛は肉体の延長としてオッケーと見るのか。

 闘いを観る者(読者)が納得する勝ち方かどうか、がその辺の答えではないかと思っています。じゃあ、納得する勝ち方とはどんな勝ち方か。それがこの6巻の独歩の言葉「美意識」に集約されてる感じです。

「俺たちゃ既に武器を身に付けちまってるんだ だから武器を携帯しちゃあいけねェ」

「たとえ一握りの砂 一本のエンピツであろうとも 闘う以前に手にしたなら武道家の誇りは崩れ去る」

 目下進行中のドイル編、このドイルはこの「美意識」とは正反対の武器集大成とも言えるキャラです。どんなラストになるのか想像がつきませんが、「武器が逆にあだになって敗北」というありがちな形にはならないで欲しいなあ。ドイルに勝利する者が誰になるのか分からないけど、肉体能力のみで全ての武器攻撃をクリアして欲しい。勇次郎ぐらいか。


7巻

 逃走したドリアンを追ってアジトに潜入した加藤。この2人のバトルでほぼ終始する7巻です。もちろん加藤は負けます。もちろん!

 ドリアンは「実力を隠し通すという擬態もまた......」「甘美な敗北を味わうにはまた必要」と語っていますが、擬態ふぜいで耳落とされるような生き方をしてきたんならもっとボロボロになってると思います。

 アラミド繊維、ヒゲ飛ばし、人間ポンプに次いでここで新たに明かされるドリアンの能力は、中国拳法、催眠術、シャンソン熱唱。すっげー歌ってます。何ページ歌ってるんでしょうか。

 中国拳法は絵的に非常にかっこいいです。1.5ページ使っての構えた姿が決まってます(50/51ページ)。

 神心会本部のサンドバックの中から発見される加藤。ドリアンえげつないです。烈じゃなければ瀕死の加藤にトドメを刺すのは同門だったトコロです。そして加藤の仇を討つべく神心会100万人がドリアンを付け狙う状態に突入。ドリアンの乗ったタクシーの運転手までもが神心会門下生。


8巻

 神心会に遊園地に連行されたドリアン。彼と末堂厚とのバトル、そして独歩/克巳/烈登場までを収録。

 遊園地入場前での神心会門下生多数を前にドリアンは「まさか君たち...この人数でわたしに襲いかかるつもりではないだろうね...」「何万人集まろうが 君たちは一対一でしかわたしと闘えぬ」とその場を凌ぎます。詭弁で逃れたんですが、ドリアンの力が未知数だった連載当時は『こんなコト言ってるけど、いざ全員が一斉に掛かって来ても勝てるんだろうなあ』と思ってました。今となってはかなり怪しいですが。

 末堂戦はジェットコースター上が舞台。当然落ちます。タックルで末堂共々落下するドリアン。しかし自分はアラミド繊維を街灯に引っ掛け速度を緩めての地面衝突。一方の末堂はダイレクトに地面に。勝ち誇るドリアンの台詞を薄れゆく意識の中無言で聞く末堂の心境や如何に。この後味の悪さが小気味良いです。

 そこで登場するのが独歩/克巳/烈の3人。克巳の「てめえが素直に心中するとは思っちゃねェが......」という台詞から察するに一部始終を見ていた感じです。鬼です。

 烈の回想を経て、ドリアンが海王であるコトが明かされますが、余り活かされなかった設定ですね。


9巻

 遊園地での独歩VSドリアン開始から決着までを収録。

 独歩の左手首は当然のコトながらありました。徳川邸なんかでのギプスの長さから無さそうに見えもしましたが、前回ドリアンに斬られた直後、近くのアングラな医者にすかさずくっつけてもらってました。

 そして放たれる菩薩の拳。ドリアンは腹の中に酸入りのビンを飲み込んでいました。料理店での食事の前に飲み込んでいたのか、それとも後なのか分かりませんが、ビンだけ上手いコト吐き出してます。ていうかこんなの飲み込んでてジェットコースターからダイブするな。

 ドリアンに小石を投げ付けたのは何だったのでしょうか。相手に催眠術を使わせる切っ掛けを与えただけになってます。一瞬にしてドリアンはそれを砂にまで握り砕きました。その砂を独歩に吹き掛けて瞬間催眠のスイッチを入れます。しかし独歩、催眠術をかけられながらも、虚像として描いたドリアンは自分にとって都合のイイ弱者ではなく海王相応の強さを持つ強敵でした。

「百戦錬磨の愚地氏は闘いが安易でないことなど知り尽してるのだ」「闘いとは不都合なもの 闘いとは思い通りにはならないもの」

 この辺が敗北を知ってるがゆえの、闘いに向き合う姿勢の現われに思えます。

 左手/胸骨/両膝を破壊されたドリアンへの最後のトドメとして加藤が登場。気迫に飲まれ「わたしの敗けだアアツツツ!!」と絶叫し大泣きするドリアン。涙、鼻水を飛び散らしながらガクガク痙攣。これにて、「決着だ」


10巻

 病院から逃走し独歩の顔面を爆破したドリアン。遊園地での命乞いすら擬態でした。そんなドリアンの前に現われるのが烈海王。烈に強さというものを問いかけるドリアン。その会話が以下。

「強さとはいったいなんだろう」

「自己の意を貫き通す力 我儘を押し通す力」「私にとっての強さとは そういうものです」

「......とするならば」

「敗北を熱望しながら現時点まで無敗のあなたは」「一度も勝ったことがない」

 自己の夢をかなえられる者こそが勝者。敗北を知りたいという望みをかなえられていないドリアンは、戦闘で誰にでも勝てる強さを持っているばかりに自分の夢「敗北」を達成できない面では敗者に過ぎない。強い者が敗北を知りたいと願ったが故の悲劇です。

つまらぬ勝利をもたらせてくれる」(1巻)
甘美な敗北を堪能するためには」(7巻)

 勝利と敗北をドリアンがどう受け止めているのかがこれらの台詞に含まれていました。

 そんなドリアンに新たに芽生えた願いが「目の前にいる烈に(格闘で)勝ってみたい」。しかしそれがかなうコトもなく、敗北。自我の崩壊により幼児退行。この烈との闘いにも「敗北を知りたい」という思いで望んでいたならばそれが遂にかなった瞬間だったのですが、その辺非常に皮肉ですね。

 ここで烈の見せた技は最大トーナメントで克巳のマッハ突きを真っ向から切り落とした超マッハ突きでしょうか。克巳は関節8箇所をほぼ同時に連鎖加速させていたんですが、ここでの烈を見ると更に色々な関節(伸ばすばかりじゃなく引く部分なども)を用いていそうです。

 巻の後半はシコルスキーが梢江を誘拐、そして死刑囚ハンターとしてオリバ登場までを収録。


11巻

 裏表紙の眼鏡バキは何? んで、一番の見どころはバキのバンダナの投げやりな修正でしょうか。もうぞんざいに修正液ペタッと塗って直し終了って感じ。

 この11巻ではオリバの紹介一応終了からシコルス敗北までを収録。序盤のオリバの紹介、ショットガンが通用しない肉体/胸を陥没させる程のパンチ力/常人離れした新陳代謝による回復速度/半端でない蔵書から伺える知識と教養など、普通の漫画なら軽い説明で済まされるトコロを(これで説得力が持たせられているかどうかはともかく)しっかり描いています。

 後半のシコルス敗北は早い早い。顔の描き方もコロコロ変わってるし。最凶死刑囚の一人として登場、その恐るべき身体能力の片鱗と思われていた「切り裂き一本拳」「クライミング」、この二つが結局シコルスの全てだったのでしょうか。最後までバケツを使ったりして肉体オンリーの強さが描き切れなかった感じ。しかもトドメを刺したのはオリバ。終始オリバの巻。次巻もか。

 連載時には、「超軍人ガイア編」同様、最後にシコルスが復活するとも思ったりしたのですが、改めてシコルスの心理描写を読むとそれもなさそうな感じ。(切レ......ナイ!!?)ゴク...ですから。これまで敗北を喫した死刑囚に、肉体/精神の変化が現れたのでシコルスもどうにかなりそうだったのですが、老化と幼児退行以外に変化のさせようがない気もするし。


12巻

 警視庁でのオリバVSドイルの顔見せバトル水入り、オリバの柔道、そしてドイルへの次なる挑戦者として鎬昂昇登場まで。

 この巻はバキ死刑囚編の流れから言ってもかなり盛り下がる部分かも知れません。特にオリバの柔道編は、柔道が嫌いになりそうな水増しエピソードです。規格外の存在オリバが警視庁柔道道場で警察官との柔道勝負。スケールアップしてるんだかダウンしてるんだか分かりません。

 昂昇の台詞、「現在のわたしは烈海王にだって勝てる!!」ってのは、空手と中国拳法の関係から出てる言葉なんでしょうなあ。本流大河の中国拳法からの枝葉の流れ、そんな空手の立場。ただ昂昇の紐切りはあまりにも亜流ですが。


13巻

 前半はドイルVS鎬昂昇が決着まで収録。

 まずはドイルの隠し刃物が肘のみならず様々な関節に仕込まれてる様子が描かれてます。ストライダムが何の説明もなしに登場。んで、部屋に乱入してきた鎬昂昇がドイルの闘いを開始します。ブレストファイヤーは何度見ても後味が悪いです。ドリアンVS末堂にも感じた後味の悪さ。サイコものの演出に通じるものがありますね。この辺の、読者のメンタルな部分に訴えるイヤさの演出、板垣氏とても上手いと思います。

 後半はバキと梢江のいちゃつきシーン。花山がスペック戦の傷を隠す為に黒マスクしてますね。容貌には無頓着そうなので意外な感じですが、単純に作画の都合なのかも知れません。

 バキの部屋に舞台が移ってからのシーンですが、改めて単行本を見るとコピー結構使ってるのに気付きました。ストーリー的にはどうしようもないんですが、そんなに作画に時間割けなかったのか。板垣氏、ネーム段階でこの展開にしていいものかどうか時間ギリギリまで迷い続けてたとか。

 勇次郎の顔が随分変なのにも気付きました。


14巻

 巻頭の作者の言葉、

>10年後の「板垣恵介」を予想して下さい。
11年後の引退計画を綿密に打ち立てている。まるで来年の引退計画を打ち立てる今年の俺のように...

 毎年もうやめたいと思い続けて10年後も今の生活やってるんだろうなあという言葉なんですが、最近の漫画の展開だと数カ月ぐらい休養してもいいんじゃないかとも思えてきます。ネタが降ってこない状態にも見える。

 この14巻はジャック・ハンマーの参戦表明、烈VSドイルを収録。

 烈が一瞬見間違う程体格に変貌のあったジャック。その理由は「骨延長」手術によるものでした。1年未満での20センチアップを「骨延長手術の効果がこれほど顕著に現われた例は 世界でも空前だろう」と語る鎬紅葉。自分の医者としての天才ぶりをさりげなくアピールです。ジャック、ドーピングに打ち勝った上にコレ。奇跡に更に奇跡です。

 烈とドイルの闘いはジャックの横やりが入ったものの烈勝利。この辺からドイルのキャラがよく分からなくなってきました。随分と一方的にやられました。オリバと接戦を繰り広げたのはなかったコトにして下さい。

 ジャックに薬を打たれ気を失った烈を出血多量ながらも朝まで警護したドイル。そのドイルを神心会本部医務室まで運ぶ烈。門下生の輸血によって命を取り留めるドイルですが、それでも止まらない。粉塵爆破で神心会1フロア吹っ飛ばしました。烈とのバトルで闘いへの考え方に葛藤が生まれつつありそうなドイルですが、今まで通してきた生き方はそうそう捨てられない。


15巻

 前半はドイルVS神心会決着までを収録。

 ドイルというキャラクターを通して描かれる内容が、いつの間にか弱いクセに意地っ張りで絶対負けを認めないヤツをどう屈服させるか、というものになっています。最凶死刑囚使って描くネタじゃないんですが、まあこれもある意味最凶だからイイか。

 弱くても負けを認めない、というのはこの作品でも『心が折れない』という表現でプラスな要素として描かれてきたコトが多いのですが、それを徹底させて作中で敵役の思想にしてみる。作者が自分の考えにアンチテーゼを設けて、それをアウフヘーベンさせたような感じがします。もしくは自分の思想を敵視してみて、それを打ち破るコトが出来るかという挑戦。

 ドイルというキャラクターは、武器集大成から始まり、何故か最後は『北風と太陽』のような話に落ち着きました。

 後半は柳とステージアップバキとの戦い。柳の空道の師/マスター国松が柳の天才ぶりを語ります。その柳がバキに一方的にやられます。持ち上げて落とすってのは最大トーナメント1回戦でよくあった手法です。毒手を試すため花を摘む柳ですが擬音がサモ...ってのが面白い。鞭打を実演する国松がフニャっとなってる絵はちょっとヤバいです。


16巻

 バキVS柳、シコルスの乱入、そしてバキから屈辱を受けたその二人がそれぞれドイル、ジャックとの闘いへ。この巻ではバキのパワーアップがメインでしょうかね。「最強に比べりゃ最愛なんて」。何だか最愛が上回ってます。振り返った花山にビクッとする柳&シコルス、これはダメ過ぎる。

 通して読むと、柳の号泣から余裕の表情への繋がりが一層しらじらしい。あの凄い雄叫びは何だったのか。ドイル戦も八つ当たりにしか思えない。バキに効かなかった毒手を別の人で試してみたという感じもしますが、最後には日本刀とか出してるしなあ。イチイチトドメ刺そうとしてるしなあ。

 連載時に黒帯斬ってたっけ? これは描き足しでしょうか? それとも単に雑誌掲載時に僕が見落としてたのかな?

 シコルスのほうもジャック戦に突入しましたが、既にバキに逃げられているので今さらなムード。骨延長パワーアップなんて新能力と共に死刑囚編に出してしまったジャックをどうにか使おうというハラだったのかも。


17巻

 シコルスキーVSジャック、途中でジャックからガイアにバトンタッチ。この巻もまた、見どころに欠ける内容になっています。

 シコルスキーはもう負け放題でいいとこなしのキャラになってます。この17巻はある意味死者に鞭打つ巻です。今さらどうしようもなく、ジャック戦でも劣勢のまま終了。

 途中で地下闘技場に舞台を移しての続行。ミっちゃんの前口上で笑みを浮かべて闘いに臨んだものの、相変わらず武器使用というダメっぷり。シコルスはここで爽やかに変わっても良かったんじゃないのかなあ。それだとドイルと被っちゃうからやめたのか? 「予想通り」って台詞も結局何だったのか意味不明です。

 単行本で読むとガイアの登場が唐突過ぎる。環境利用闘法の手札も砂だけとヒド過ぎる結果になったし。


18巻

 シコルス、柳の後片付けからミスターと呼ばれる謎の男登場までを収録。添付されていた6月期少年チャンピオンコミックス新刊ニュースの花右京メイド隊のカットが凄すぎ。

 ガイア戦にてシコルスが敗北。シコルスの敗北は何度目でしょうか。それよりも柳の弱体化がヒドい。だって本部に負けてるんですよ。単純に数値化出来るパワーゲームじゃないとはいえ、ある程度の基本能力の差の設定ってものがあるでしょうに。

 柳の手を切り落とした時の本部、連載時はJガイルチックなコトになってた記憶があるんですが、描き直されたのかな?

 後半は、柳の毒が実は効いてましたというバキを取り巻く話。本編ではガリガリになっても扉ではふくよかな顔を見せています。

 次巻19巻の冒頭の登場人物紹介がどうなるのかちょっと楽しみ。今回で一応死刑囚全員片付いたので。


19巻

 過去における勇次郎とマホメド・アライの邂逅、そして毒が回って「死」が迫るバキ。死刑囚編に取り敢えずの決着が着き、新章へのプロローグともいうべき内容。

 マホメドと勇次郎のやり取りは妙な感じがします。勇次郎が他人を尊敬するってのが違和感あり過ぎ。「アンタは 力なき者の希望だ」などと敬意を表し、数ページ後には力を手に入れたい的発言。何が何だかという感じです。しかもこの第166話のサブタイトルが「鬼の敬意(リスペクト)」というどことなく面白みすら感じるものです。凄いリスペクト、というように読めます。鬼の、ってのは。

 死にかけのバキは飛騨に行って、最後は烈に拉致されて終了。中国へと向かいます。各話の扉絵は例によって主人公/バキが描かれるコトが多いのですが、そこでは激ヤセ顔が描かれるコトは少なめ。見栄えが悪すぎるからでしょうか。

 次巻予告の『勇次郎と謎の男の直接対決!! 臆することなく立ち向かうこの男の正体は一体......!?』って。いやマホメドの子供ですよ。謎の男て。この19巻で充分描かれたじゃないですか。


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