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1巻

 僕、原作を読んでいないので序盤ちょっとどこが回想シーンなのか分かりにくかったんですが、この「餓狼伝」は、主人公/丹波文七敗北から始まります。プロレス道場に殴り込んだ文七、その相手になったのは梶原年男。そして文七敗北。

 これも原作を読んでないからなのかも知れませんが、文七の闘う理由が不明です。原作をもし読んでもその点に触れられているか怪しいもんですが。きっとただ「強くなりたい」という本能レベルの起点を持ち続けてる一人なのでしょう。

 「グラップラー刃牙」最大トーナメント決勝前で主催者徳川光成が放ったセリフ「男として生まれたからには 誰だって一度は地上最強を志すッ、もし闘いに向かう理由がなくてもこれで片付きます。

 この巻では梶原への敗北から3年の修業を経、泉宗一郎との立ち会いに勝利した文七が、帰国した梶原へと挑むトコロまでを収録。

 泉宗一郎戦で立会人としてその闘いを見届けた北辰館の姫川勉から館長の松尾象山へと文七の存在が伝わったり、リングに乗り込んだ文七をFAW社長グレート巽が興味を持つなど早くも主人公を中心に格闘界が動き始めます。


2巻

 丹波文七がリングに乱入し、梶原を倒してグレート巽の目に止まる。そして北辰館の猛者を屠ふる文七の偽物が登場。濡れ衣を着せられ北辰館に連行される文七、松尾象山と対面。圧倒されたその帰り道、遂に偽物が文七の前に姿を現す。ここまでを収録。

 冒頭でいきなりリベンジを喰らって梶原絶叫。梶原、鞍馬にも何だか似た感じの扱い受けてるしもう負け犬街道まっしぐらです。突如現われた謎のニューカマーにやられるのが本業になってます。

 この巻では松尾象山の強さの片鱗が描かれています。「象山=最強」として、この作品では「空手」を一つの頂点に据えているような気もします。「グラップラー刃牙」の方では空手のトップは愚地独歩ですが、どうも最強には近くてもイコールではない。漫画の世界観の枠が違い過ぎますが。姫川がブレストファイヤーやったら板垣刺します。


3巻

 丹波文七と、その偽者こと竹宮流/藤巻十三との闘い開始から水入り、そして北辰館/堤城平、FAW/長田弘の顔見せといった内容の巻。堤や藤巻との絡みが後々のバトルを予感させます。

 長田が北辰館に乗り込んだ時のセリフがイイです。カッコいい。

「FAWの長田か」

「長田弘個人だ」

ところで長田が道場破りに乗り込んだ時の絵に被せてる“FAW長田現る”って編集部で付けたヒキ文字じゃないんでしょうか。見落とし? 「バキ」2巻の“ドリアン登場!!”も同様に何だか変な感じを受けます。


4巻

 この巻は特にメインとなる話はなく、様々な登場人物達の関係/因縁といったものの仕込みや過去が描かれています。

 プロレスと空手での長田と象山、竹宮流に関する藤巻と文七、いづれ来る闘いを予感させる文七と堤、一人の女性を廻る藤巻と姫川、虎王にまつわる象山と藤巻、北辰館の大会に対する長田と藤巻。

 細かい仕込みが沢山あり、この巻の段階ではキャラクターがどう絡んでるのか正直ワケが分からなかったんですが、後々それがかなり活きてきてます。

 堤がキャラ的にイイ感じです。朴訥実直ぶっきらぼうで。「近付くな それ以上近付くと動くって台詞が素敵。

 「餓狼伝 格闘士真剣伝説」によると、当初この堤、ブラッドピットみたいなデザインだったのを鮫の目を持った小男に変更したそうですが、予定されていたデザインはシコルスあたりに流用されたのでしょうか。


5巻

 松尾象山の過去、そしてグレート巽の回想突入まで。

 この5巻の帯に確か「10年前に読んだ活字の松尾象山に震えた」という感じの板垣自身の文が載っていたと記憶しています。その象山が19年前にプロレス道場に殴り込んだエピソードなんですが、その時に対戦した相手の強さの表現がイイ。煙草を一息で根元まで灰にする肺活力。こういう感じでの、読み手が容易に測れる日常の仕種での身体能力の凄さの表現が好きです。

 そんな相手に勝利していた象山。何かキャラ、19年前も今も全然変わっていません。見た目も性格も。

 巽は過去アメリカにて地下プロレスをこなしていたのですが、この巻ではまずはその導入部分。巽という脇役が主役を張るこの「VSクライベイビーサクラ」はこの巻から8巻まで続きます。ひょっとしたら現時点までの漫画版「餓狼伝」で、板垣が一番描きまくったキャラかも。

「オレがプロレスを ボクシングの高さまで引っ張り上げるッッ」

この台詞がイカす。プロレスにまつわる八百長/台本呼ばわりを排除した真剣(シュート)をひたすらに仕掛け続けて、ファンも着実に増やしていきます。


6巻

 グレート巽の過去回想突入。公式な試合ではもはや敵なし状態のタツミに準備された舞台が地下プロレス界。ここに入って最初の勝負、ブラジリアン柔術の使い手/ペドロ・ゴラエスには多少手こずるものの、やはり次々と快勝を続けます。舞台を地下に移してもタツミ人気はうなぎ上りです。

 そして早くも相手がいなくなりかけた矢先に、この地下プロレスのボスこと泣き虫(クライベイビー)サクラの登場。視力のないサクラは常にサングラスをかけています。タツミとの闘いを告げ、立ち去る際メガネを外しますが、その場にいた女性が失神。とにかく『視力がない』とは言え実際どんな風になってるのか気になる描写です。

 サクラに関しては、視力が失われているものの、残る四感全てが尋常でないコトも表現されています。グラス満々の表面張力ギリギリまで酒を注ぐ(聴覚)/蚊に残った血を嘗め、血の主の体調を知る(味覚)/科学塗料の臭いで色を知り、筆に伝わるキャンバスやパレットへの感触で油絵を描く(嗅覚・触覚など。

 とりわけ聴覚が鍛練されていて、相手の声の位置で身長、声質で顎を中心とした顔の輪郭、声量で胸部から腹部の形状、座ってる座席の軋む音で体重を弾き出し、ほんの1分ほど会話を交わしただけのタツミの姿を絵にしているトコロは半端じゃないです。

 このクライベイビーサクラは原作に登場しない板垣恵介オリジナルのキャラクターです。ほぼ1巻分かけて紹介された化け物サクラ、タツミも日の丸の旗を前に正座して、

人類(ヒト)と闘うという気すらしない

と恐怖に顔を引きつらせています。全くです。


7巻

 巽VSサクラ、ゴング。序盤は巽のラッシュで圧倒しますが、全く効いてません。試合が決まってからのこの1週間に仕込んだ幾つかの小技、嗅覚/聴覚をマヒさせてのラッシュで決める作戦は一瞬にして無に帰しました。

 このラッシュでサクラのメガネが破壊。盲目がどんな状態で盲目なのかが判明。眼球が丸々ない。板垣恵介のサイコ嗜好がちょっぴり伺えます。

 闘いの途中途中で巽とサクラ、それぞれの過去が描かれています。サクラの過去の出来事は一つ一つが今のサクラのキャラ作りに反映されています。与えるだけの愛はいらない/奪いなさい/「待つ」という時間は長い。

 一切の攻撃が通用しない化け物/クライベイビーサクラに打つ手なしの巽、で次巻へ。


8巻

 巽とサクラの勝負に決着。

 最後に決め技として巽が使った変型締め技がこの闘いのラストにまさしく相応しい。視力があれば一目瞭然の技。しかし、人体の構造を知り尽くしていようが残りの四感を駆使しようが予想不可能な技。折れた腕を関節と逆方向にねじ曲げて締める。むしろ人体の構造/可動の限界をなまじ知り尽くしてるが故の予想不可能ぶり。

 そして敗北によって封印が解かれ、失った涙を取り戻すサクラ。想像出来ていたシーンとは言え、この泣きまくりぶりは流石に異常です。16ページ泣いてます。観客も思いっきり引いてます。

 試合の後日談、ここでサクラの「ママのもとへ送ってほしい」との依頼を受け、巽はサクラを殺します。サクラはもったいないほどキャラ立ちまくりでしたが、「餓狼伝格闘士真剣伝説」によると板垣氏としては、グレート巽の持つ『アマチュアが真剣(シュート)へ生半可な気持ちで憧れるな』という思想を決定付ける為に、これは外せなかったらしい。

 回想から現在に戻り、社長室の椅子で眠っている巽。尚、増刊号では描き下ろしとしてこの部屋の壁にサクラが描いた巽の油絵が飾ってあるシーンが追加。試合前には描かれていなかった腕/脚/目が描かれた完成版、というコトでこれは試合後にサクラが描き上げたもの。そう分かると、死闘を乗り越えた二人の友情に感動します。


9巻

 この9巻って確か最近の書籍にしては珍しく帯が付いてなかったような。

 この巻では二つのバトルが中心になっています。堤城平VS長田、鞍馬彦一VS久我重明。

 松尾象山立ち合いでの堤と長田の闘いでは、どうにも堤の強さばかり際立ってる様子。重い/疾い/休まない堤三拍子がここで描かれています。一方の長田は別のトコロで後輩にトロい/ショボい/影が薄い3連コンボを決められてるのですが。

 その後輩こと新キャラの鞍馬彦一、前巻まででその実力が読者に知らしめされたグレート巽の後継者として登場。漫画オリジナルキャラです。組手を相手取る久我重明は、夢枕獏の別作品からの乱入。

 鞍馬は、スタミナ/パワーといった基本部分が容量高め、だけどルールを知らないヤツです。そう考えるとコイツってオリバのルーツでしょうか。鳴り物入りで登場したこの鞍馬、まさかその同じ巻で久我にボロボロにされるとは思ってもいませんでしたが、成長する天才の過程をも見せてるのかも知れません。


10巻

 鞍馬と久我のスパーリング後半、そしてFAW大会に丹波文七参戦決定、その相手は堤城平。その試合開始までを収録。

 久我の蹴りの変幻自在ぶりの描写が好きです。急変化する軌道。あと無表情なのもイイ。組手を終えて去る久我ですが、今後この「餓狼伝」に出る予定はあるんでしょうか。絵的なモデルは巨人の松井だそうですが、描き続けてるうちに板垣流になっています。もっとも板垣恵介の絵はたいていモデルとかけ離れた絵になってますが。ドイルのモデルが女性アイドルだなんて。

 館長室での松尾象山と姫川勉の闘いでは、例の断片的な心理の瞬間をちりばめる技法が初登場(ルーツ的には「グラップラー刃牙」の刃牙VS烈でのアナウンサーの『実況が追い付かない』だと思われます)。そして武宮流「虎王」がこの大会でのキーワードになる様子が伺えるシーンが幾つか出てきます。

 後半はいよいよ「丹波文七VS堤城平」がゴング。序盤から飛ばしまくり。刃牙VSジャックのような打ち合いから開始です。


11巻

 前巻から始まった「丹波文七VS堤城平」決着、そして鞍馬が梶原を控え室で倒し大会に乱入までを収録。

 同日発売だった「バキ」12巻と正反対の、密度の高い1冊。ほぼ文七VS堤からなるこの11巻、闘いがシンプルながらも描き込み密度が異様なほどです。戦闘中の二人のうち、心理面が表現されているのは主人公/文七のみ。堤は何を考えてるのか心理描写ほとんどナシと言ってイイです(虎王を喰らう直前、『勝...』とあるのが惜しい。これがなければ心理描写ゼロだったのに)

 連載時の感想にも書いたのですが、この堤の心理描写がないにも関わらず、堤が何を考えてるのかとても伝わる手法が上手い。文七がダウンして起き上がるまで、色々な心のうちが見えますが、堤がダウンした時もきっと同様だった、ダウンした堤を前に文七が様々に考えてたコトも裏返せば、文七がダウンした時にも堤は同じようなコトを考えていたのが伝わります。

 アッパーズで読み逃していた文七が2秒でハネ起きる直前の回は、文七の過去が描かれていた模様。餓狼を16歳の時にも解放していた。喧嘩で尊敬していた先輩が素人の刃物に破れたコトへのショック。漫画版で文七の闘いへの起点が描かれたのは初、です。今後描かれるとは限りませんので、最初で最後かも知れません。

 この「文七VS堤」は「巽VSクライベイビーサクラ」以来の、最初から最後まで描き切った名勝負です。


12巻

 FAW格闘イベントの残り2試合、「船村弓彦VS鞍馬彦一」「イーゴリー・ボブVSグレート巽」を収録。

 ところでこの大会は勝ち上がりトーナメント戦じゃなかったようですね。僕はてっきりそうだとばかり。じゃあ「文七VS堤」なんてカードがあって良かったじゃないか! 象山はこの二人の激突バトルを見たくなかったのでしょうか。

 鞍馬の黒帯掴みは流石に修正が入ってますね。バキが梢江宅でシコルス窓の外に放り出した時は描き直しなかったのに。

 ボブVSグレート巽、「真剣」を受けた時の巽の顔はマジで恐い。目が座ってるってのはまさにコレ。最後に控え室でアゴ固定の解説をしていたのは試合中ボブのロシアンフックが効いてなかった理由を問われてやってたのかな?

 この作品って登場人物のパワー相関図が一度確定したらなかなか変化しなそうです。それ故そのパワー相関図自体を明らかにしていない(滅多に試合をしない)のは作品の魅力として上手く転がってる感じがします。象山と巽が二強なんですが、主人公を含め他の格闘家がこの2人に勝てる気が全くしません。作品の世界観からして、バキのようにいきなりステージが上がったりする演出はなさそうですし、どう収集つくのでしょうか。原作の夢枕氏はこの作品も終わらせないシリーズとして考えてるのかなあ。読者の身にもなれ(笑)。


13巻

 前半では前巻にて激闘を繰り広げた文七と堤の勝負後のエピソード。

 勝者が敗者にどんな態度をどればいいのかというのは刃牙幼年期編でも幾度か描かれてたものです。お互いの力を振り絞った闘いの果て、そこに残るのはいがみでも優劣の感情でもなく『絆』、というのが格闘家のメンタルな部分での理想なのかな。

 ところで巽が病室に入ってくる際の『華』という描き文字がなくなってます。どうして? 流石にギャグっぽ過ぎると思えたのでしょうか。

 後半は全日本空手道オープントーナメントへのプロローグ及び開催までを収録。ただでさえ影の薄い主人公/文七をしり目にこのトーナメントは長田を中心に動き始めます。

 梶原が改めてバカ過ぎる。説明役の配分の結果でしょうが、文七に耳打ちしてた頃の適度な達観力がまるでなくなってます。片方失ったからでしょうか。

 井野先生が結構クローズアップされていました。他のキャラが1コマで絵と説明がなされてるトコロで2コマ使われてます。今見ると髪型が微妙に違う感じ。

 このトーナメントが終わっても5対5マッチがすでに予約されてるんですよねえ。ネタ的には困らなそうなんですが、伏線の仕込みが早すぎて大局的な展開の読めない昂揚感ってのはちょっと薄い。その分過程過程が面白く転がる作品なので構いません。


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