結城昌治


●「振られた刑事」(文春文庫)

惚れていたバーのホステスが殺された。生前、急に冷淡なそぶりにかわった彼女に、なにが起こっていたのか? 捜査陣からはずされた刑事は、ひとり真実を追う。さまざまな人生の悲喜劇に、優しい視線をむける短編の名手が、表題作以下、多彩にくりひろげられる佳篇九作。単行本未収録作品を集めた文庫封切版。

 結城昌治はどの作品も丹念に作られてる感じがして非常に好感が持てます。まさに、「地味でイイ(BY.M橋氏)」という作家で、僕にとって、古本屋で未読作品を見つければ即購入する作家の一人になってます。

 結城昌治作品には、ユーモアな作風と悲愴感漂うシビアな作風という、正反対の二つの流れがありますが、この短編集はその両方が含まれています。「単行本未収録作品を集めた〜」って部分に落ち穂拾い的なイメージも持つかと思いますが、結城昌治はどれも安定した面白さがあるので、その辺はどうでもいいです。

 この本の初版が1983年10月25日、流石に使われてる言葉に時代を感じさせるトコロもあります。例えば、地の文に、

サラリー。

という単語が出てくる辺りとか。まあ、内容の面白さに影響はないので、その辺もどうでもいいです。

(20010708sun)


●「葬式紳士」(角川文庫)

雪山讃歌/狙った女/妻よ永遠に/不可抗力/視線/ショート・ショート(秩父銘仙/絶対反対/発見)/通り魔/替玉計画/最後の瞬間/うまい話/葬式紳士 以上13編収録

 ショートショート3編を含む結城昌治の短編集。3編を含む、というよりどれもショートショートぐらいの短さ。肉付けが削がれた、プロットそのもののみぐらいの作品ばかりです。もちろんそれは悪い意味ではなく、骨格のみ/水増しゼロなので、結末の鮮やかな逆転が際立ってます。

 中でも表題作「葬式紳士」社長の椅子を望む男・種原に、殺し屋を名乗る紳士が候補者を始末すると持ちかける内容なんですが、これが途中途中でイチイチ自分の予想と種原の不安が重なり(つまり自分の予想はオチには来ないと考えていい)、最終的には意外な方向へひっくり返してくれて楽しめました。

 男女の愛憎がイントロもしくはオチに絡んでる作品が多い印象も受けました。これまで読んだ結城昌治作品もそうだったのかも知れませんが、今まではあまり意識したコトなかったです。それにしても、男弱え。

(20011226)


●「犯行以後」(角川文庫)

死ぬほど愛して/犯行以後/キリンの幸福/もつれ/三じじい/死んでから笑え 以上6編収録

 結城昌治の短編集に関してはもう別に書くコトがないんですが。てなコトもひょっとしたら既に書いてたかも。どれもブラックな味の作品。

本人悲劇、ハタから見たら喜劇。

こうして短編タイトルを改めて並べると「三じじい」ってのが強烈です。内容は、三人のじじいが出る作品です。

(20020224)


●「影の殺意」(角川文庫)

最後の分別/ある恋の形見/あとは野となれ/気ちがい/影の殺意/あるスパイとの決別 以上6編収録

 これも短編集です。本格(パズル)ミステリの条件は「伏線を組み合わせると、解ける」、この辺だろうと思うんですが、そう考えると本格ではないと思えるものも含まれた短編集。僕は実際のトコロ、『面白い小説ならミステリの条件を満たしていないミステリでもイイ派』なんですが、ミステリの定義を「伏線を組み合わせると、解ける」としてる人には『初期傑作ミステリー』っていう部分は看板に偽りあり、かも。

 「気ちがい」など、ここに乗せてHPが削除されないか不安なタイトルの短編もあるこの作品集、取り分け面白かったのは「ある恋の形見」と「影の殺意」。両者とも本来のミステリの構成/段取り/手札の見せる順番を変えた作品です。その辺に特に「伏線を組み合わせると、解ける」に該当しないものを感じるんですが、小説として一級品なので構いません。

 「影の殺意」、中盤からの盛り上がりがハンパじゃないです。僅か35ページほどの短編なのにこのエネルギーは何なのか。メイン登場人物の二人のどちらにも感情移入できる感じ。ラストはやるせないです。

(20020407)


●「始末屋卯三郎暗闇草紙」(徳間文庫)

闇から闇へともめ事を始末する、幕府御家人・筧卯三郎---関口無心流柔術の達人で、人呼んで始末屋という。
武士は権力に奢り、商人は金もうけにうつつを抜かす時世に厭気がさしながら、さりとて職人の真似事をするわけにもいかず、人間関係のごたごたに首を突っ込んでは収入を得る始末屋稼業、唐桟の着流しに一本差し、今日も江戸の町を行く...。

娘のいのち濡れ手で千両/深情け不義の手違い/初不動地獄の証文/都鳥遺恨の簪/つつもたせ濡れ場の筋書/河内山冥途の路銀/水子地蔵由縁の枕絵 以上7編収録

 時代推理、となっているんですが、結城昌治お得意のハードボイルドですね。骨子としては足で情報を得、事件の真相を暴く刑事モノです。ぶっちゃけ時代を江戸に持っていっただけにも思えますが、当時の背景/風流などの下調べが充分で、作品を包み込む外見的な印象は微妙に異なります。

 作風/本質がしっかりしてる作家は、どんな舞台を扱っても読むに耐えられる作品を作り出します。結城昌治の書く作品は、人間の弱さなど限りなく不変的な内容を料理してるのでジャンル不問の面白さがあります。1冊読んで面白いと思ったら、どの作品もオススメできます。

 当連作集では、各短編毎に史実上の有名人が登場。物語のキーになったりならなかったりですが、山風の明治もののような遊び/サービスを感じます。

(20020917)


●「犯罪者たちの夜」(角川文庫)

ストイックな正義観と独自の行動哲学をもつ孤独のヒーロー、紺野。
七人の弁護士仲間でビルの一室を借り、1DKの安アパート暮し、オンボロの車を駆って、舞いこんでくる事件を追って今日も巷を奔走する。

夜に追われて/危険な女/殺意の絆/きたない仕事/不透明三角関係/猫の身代金/行きずりの女/因果の車/密告者 以上9編収録

 「死者たちの夜」に続く紺野弁護士を主役に据えた連作集。ここで言うコトではないんですが、連作集とは同一の主人公が登場する(もしくは同一の世界観を共にする)短編集を指します。最後にシリーズ全体を包めるラスト、というものがない、どの短編から読んでも構わないものです。この作品にしても発表順に並べられているワケではありません。

 結城昌治作品に関してはもう書くコトなくて困ってます。主人公/紺野の造型がイイんですが、結城昌治作品の主人公は社会的にアウトロー、でも自分なりの信念を以て行動している、というキャラ造型が多い印象。前回感想の「始末屋卯三郎暗闇草紙」の筧卯三郎なんかもそんな感じです。

(20021030)


●「風変りな夜」(中公文庫)

 短編6編が収録されていて、非常にレパートリーに富んだ内容になっています。幾つか読んだ覚えのある作品もありましたが、通読しました。

瀬峰二郎の犯罪

 最初は割とオーソドックスなミステリで。オーソドックスと行っても犯人落としの倒叙スタイルですが。

喘息療法

 夫を殺害しようと企む妻。みみっちい駆け引きがコミカルな雰囲気を醸し出していて、結城昌治のブラックユーモア嗜好の色合いが出てる作品です。ラストはそれなりに「読める」んですが、短編だし構わない。

暗い家

 ブラックだけど、ブラックユーモアとはいえないシビアっぷり。「喘息療法」「暗い家」「孤独なカラス」という並びはどんどん救えなくなる内容になっていてこれ狙ったのか?と考えちゃいます。

孤独なカラス

 これは何でしょうか。オチも何もない感じです。今日日で言うトコロの快楽殺人ものみたいな印象です。結城昌治作品としては珍しい何もないっぷりです。登場人物のカラスはその思考の不明瞭さが不気味さを醸し出しているのですが、この作品自体が何を書きたいのか分からずそのまま不気味です。

昇天綺譚

 ババアの一人称によるミステリという感じでしょうか。宮部みゆき辺りならもっとあざとく泣かせる方向に持っていきそうですが、そこは結城昌治。むしろ皮肉的に料理しています。全体に漂うすっとぼけた感じがイイ。老人の見えの張り合いなんかの細かな描写が楽しい。

惨事

 救えない話です。暴行を受けた女性が心の傷を癒せるコトなく人生を踏み外していく話。過去を捨てる/怨みや憎しみに囚われてはいけない、なんていう道徳めいた一言では済まされない気持ちというのはある。そっちに行っちゃダメだと分かっていながらもそっちに向かう気持ちが非常に分かるという。当事者じゃなきゃ理解できない痛みがビシビシ伝わる作品。

(20021030)


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