夢枕獏


 結構同じ事書いてる作家という気がします、夢枕獏は。いや全然イイんですけど。同じ材料を違った切り口で見せたいってのは非常に良く分かる心理なので。良く分かります。あ、今のちょっと、くどい男である自分の自己弁護入ってます。夢枕本人も、できる事なら「自分はこうしたけど、別の作家ならこの題材をどう料理するのか」ってのを見たいんじゃないでしょうか。でも他の作家が誰も扱わない題材である為、自分で何度も使ってるのかも。

 長期連載が、なかなか終わらないってのも夢枕の特徴です。「餓狼伝」「獅子の門」などといった完結していない長篇は終わるまで読まないでおこうと思っていたのですが、「キマイラ」シリーズちょこっと読み始めてしまいました。ちゃんと終わらせて欲しい。ラストまで書き切って欲しい。変なところで作家本人、死なないで下さい。ちなみに「陰陽師」は一話完結の連作集なので、いつでも抜けられますから別に構いません。

 夢枕作品は読み易いです。時代・世界・人物など、多種多様多岐に渡る夢枕作品ですが、共通して言えるのはこの読み易さですね。改行率が高く、不要な繰り返しが多いのかも知れませんが、読んでいてこれ程の疾走感を感じさせる文章は珍しいです。加速するする。あっと言う間に読み終える事が出来るので、読了カウント稼ぎにももってこいです。

 いやあくまでも読み易い、上手い文章なのでついつい手を延ばすんですけど。


●「鮎師」(講談社文庫)

死相の漂う初老の男は早川の淵に誰も見たことのないような巨鮎が潜んでいると告げた。初めは半信半疑だった中年の男も、ある日巨鮎の存在をその目で確かめ、いつしか巨鮎釣りにのめり込んでいった。「あいつだけは、誰にも渡さん」と死の床で吠える男と中年の釣り師との間に奇妙な友情が生まれ、終局へと向かう。

 何だか、夢枕作品には実生活に破綻をきたす程、何か一つに打ち込んでいる人間を扱ってるものが多いかも、とふと思いました。かなり趣味的な、端から見たら「だから何なの?」と言われるような、どうでもいいような事に。

 結構、僕そういうの燃えます。この作品では、鮎。巨鮎を釣り上げる。巨鮎ですよ巨鮎。

 デカいものは無条件で凄い。そんな本能レベルでの魅力や屈服感といったものがひしひしと伝わってくる作品でした。

 ところでデカい、巨○と言って僕が真っ先に思いつくのが、

 巨人ですね。 

ていうか他に何も浮かばないです。

(20010503)


●「風太郎の絵」(ハヤカワ文庫)

そのひとは絵を描いていました。ていねいに描いていました。そのひとのことを想うと心がいたみ、あたたかくなるようなひと。人が生涯にただ一度しかめぐり会えないような、風太郎とは、そのようなひとでした......表題作「風太郎の絵」をふくむ幻想短編集。夜の話、山の話、獣の話、虫の話、草の話、星の話、風の話、絵の話、夢の話、刻の話、ちょっと怖い話など、夢枕獏の原点、そのエッセンスをちりばめた、初期作品集。

 他の短編集に収録しようがないモノを落ち穂拾い的に集めた、初期夢枕獏短編作品集。「夢枕獏を語ってはならない。ただ読む。ただ読む。それが正しい夢枕獏の読書法である。」というのが作者本人の言葉で、全くその通りだと思います。ていうかホントは感想書きようがない。いま、裏表紙の紹介をタイプしてて思ったんですが、この文章を考えた人も僕と同様の気持ちだったんじゃないだろうか。「○○の話〜」って部分で特に。夢枕はもう夢枕としか言い様がない領域。

(20010513)


●「上弦の月を喰べる獅子」(上・下/ハヤカワ文庫)

あらゆるものを螺旋として捉え、それを集め求める螺旋蒐集家は、新宿のとあるビルに、現実には存在しない螺旋階段を幻視した。肺を病む岩手の詩人は、北上高地の斜面に、彼にしか見えない巨大なオウム貝の幻を見た。それぞれの螺旋にひきこまれたふたりは、混沌の中でおのれの修羅と対峙する......

 夢枕獏が何度と繰り返し書いているテーマに「螺旋」があるんですが、この小説はその「螺旋」を扱ったものの一つの到着点とも言える作品です。スケールのデカさも心地良いです。仏教思想や宮沢賢二といったギミックのちりばめ方がカッコイイ。夢枕獏本人もかなり気に入ってる作品なのではないでしょうか。あとがきで「これは凄い。この本は面白い」と自ら熱く語るのはいつものコトなのですが、何よりこのあとがき、普段よりも長い。更に、いつもに増して熱い。

 上下巻と分厚い作品ですが、特有の疾走感を伴う文体でグイグイ読ませます。オススメです。完結してるし。

(20011210)


●「混沌の城」(光文社カッパノベルス/上・下)

 この作品もまた「螺旋」がストーリーの中核をなしていますが、「上弦の月を喰べる獅子」や「月に呼ばれて海より如来る」などに比べると、活劇色がはるかに強くなっています。インチキ時代小説風作品です(失礼な表現じゃありませんように)。

 残念なのは、一応の完結は見せてるものの、扱いが中途半端なままで止まってる部分があるコトでしょうか。巨大な物語のプロローグ的な位置付けにあたるのかも知れませんが、基本的に夢枕は長編が完結しない作家である、と覚悟した方がイイと思うので、予定されてる続編「混沌の帝国」が執筆されるのは期待しないほうが良さ気です。

(20011210)


●「陰陽師 付喪神ノ巻」(文春文庫)

 「活字倶楽部」での作者インタビューで、「晴明は、現代の知識を平安に持っていったらどうだろうという発想から生まれたキャラクター」という感じのコトを夢枕氏は語っていた覚えがあるんですが、確かに時折出てくる哲学的でいて宇宙の本質に迫る発言にはそんな感じが伺えます。

 冒頭で謎が掲示され、それが解明される。安倍晴明/ホームズ、源博雅/ワトソンみたいな配役になってるんですが、謎の解明は現代に於いて合理的とされる解明ではなく、鬼・もののけ・霊の存在がアリな上での解決になっています。途中の伏線を組み合わせればラストが読者にわかるミステリ、というものではなく、ミステリ風の作品ですね。あくまで風。

(20020103)


「月に呼ばれて海より如来たる」(廣済堂)

※何となくネタバレしています。

 夢枕作品で繰り返し使われているモチーフ「螺旋」を扱った1作です。以前読んだのですが、再読。

 この作品は雪山山頂にて主人公が巨大な化石を目撃するシーンが全てです。もともと夢枕作品はリーダビリティ優先型の小説が多く、正直なトコロ密度の薄い内容に感じるんですが、この作品もそんな感じで、先に述べた1シーンのみが唯一強烈に残っています。1つどこか印象に残ればそれでイイと思うので、この作品はこの1シーンで素敵です。映像的で、神々しさを感じる1シーンです。

 あと、主人公がこの化石を見て以来、一瞬先の未来が見えるようになるんですが、これちょっとガイアっぽい。別に珍しくない設定ながらも、夢枕氏と板垣氏の間なので何か関連性を感じます。

 作品全体に冷たい空気が漂っているような1作。夢枕作品でかなり好きです。

(20030118)


活字中毒記へ

トップへ


 

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送