山田風太郎

 「ダ・ヴィンチ」11月号購入。別段定期的に買ってる雑誌じゃないんですが、「作家10人が語る私の山田風太郎」なる企画があったのでついこれ欲しさに。6ページなので立ち読みでもイイ程度なんですが、まあほら、例えば藤井隆が表紙だったらそれだけでS本氏買いますよね(勘発言)。そんな感じですか(どんな感じですか)。

 山田風太郎とは、今年の7月28日に亡くなった天才作家です。有名ドコロの著作では「魔界転生」などが挙げられます。これは映画で有名になった作品で、映画の出来は良いとは言い難いモノです。試写会を観終えた山風本人が沈黙を通したというエピソードも何かで読みました。割と飄々としている山風にしては珍しい態度ていうか映画それ程のヒドさ。本家の原作の壮絶さを味わって欲しい作品です。これに限らず山風作品は全部ですが。

 んで、気付いたんですが、「忍法創世記(出版芸術社)」、既に発売してるんですね。山風本人が最後まで出版を渋った幻の忍法帖です。出すのを渋ったのは、本人的に満足のいく出来じゃないから、らしい。「本人が出したくないって言ってるのも出してるしー(BY.M橋氏)」ってのはこの辺ですな。僕も昔の絵とか見せたくないのでこういった作家の気持ちも分かるんですが(←並べるなよ烏滸がましい)、山風は自作に厳しい部分もありそうなので、例え自身が不出来と思っても並みの作家の傑作以上の内容は有してるでしょ。読みてえ、ていうか買え自分。

 「エンターテインメント作家7人が選ぶ風太郎作品BEST3」ですか。選出者に何で流水がいるのかはともかく僕が一番波長が合うのはどうやら新井素子らしい(選出してるのが「魔界転生」「柳生忍法帖」「甲賀忍法帖」)。霞流一のチョイス、いいですね。「天誅」あたりはバカミス作家としてのお約束で入れてるとして、「明治断頭台」「太陽黒点」の2作がくるのはフータリスト(造語)です。

 皆川博子の寄稿文にある「江戸を滅ぼした相手への感情を主人公は理では律しきれなかったのだ」、ここが山風作品に多く見られる人物像を上手く言い表わしていますね。

「理では律しきれない感情」。

ああ、コレだよコレ。僕はとりわけ「御用侠(小学館文庫)」のラストの主人公の行動にそれを感じていました。山風は、その作品から時に冷徹さを感じるんですが、根底にあるのは人間の不確実性と諦観なのでしょうか。

(20011012)


《インチキレビュー》

●「甲賀忍法帖」(講談社文庫)

 物語は、竹千代、国千代どちらを徳川三代将軍にするかを、甲賀、伊賀の精鋭10名ずつの忍者の潰し合いで決めるという、とんでもない設定から始まります。生き残ったのが甲賀側なら国千代。伊賀側なら竹千代。三代将軍の幼名を知っていればこの段階で勝利する側が分かってしまうんですが(僕はもちろん知りませんでした)、実はその辺の歴史的な部分はどうでもよくて、この作品をはじめとする「風太郎忍法帖」の醍醐味は、闘いそのものにあります。

 忍者は各々が独自の忍術を持っていて、そしてそれはいわゆる忍術とは思えないものばかりです。一人に一つの特殊能力、ジャンプ漫画的なノリですね。スタンドや念といった能力をイメージしていただけると分かりやすい。ってジャンプノリを切り開いたのが逆に山田なんですが。

 更にこの作品は忍法帖の一作目ゆえにアイデア充実、出てくる忍法もストレートで、分かりやすく、強い。「姿を消す」、「変身」、「不死身」など。こういった無敵に近い忍法が、どう破れるかもまた物語の醍醐味になってます。

 そして何といってもこの作品のベストの見どころは、愛し合う敵味方二人、甲賀弦之介の対決に尽きます。

 甲賀弦之介の能力「瞳術」、これは相手を睨み付ける事で、相手の術(攻撃)を相手自身にはね返すもの。

 一方、朧の能力「破幻の術」、これは彼女が目を向けた相手の忍術を、全く無効化、白紙にしてしまうもの。

 この最強の矛と最強の盾の対決が凄い。二人がすれ違った瞬間、相打ちはなく、どちらかが生き残り、どちらかが死ぬ。

 山田の紡ぎ出す、強烈な残留を与えるこの「矛盾」の答えを、読んで震えて下さい。


 

●「柳生忍法帖」(講談社文庫/上・下)

 忍法帖の中では個人的にもっとも好きな作品がこれです。エログロナンセンス、忍法帖の魅力が漏らさず盛り込まれている作品。この後、「魔界転生」「柳生十兵衛死す」へと続く、十兵衛三部作の一になります(ただ「柳生十兵衛死す」は十兵衛を扱ってても別物の気がしますが)。

 柳生十兵衛、全く豪放爽快で健全な典型的ヒーローです。陰湿で頭脳派な策士、例えば司馬遼太郎「燃えよ剣」の土方歳三などが好きな僕なのに、何故、十兵衛こんなに気に入ってるんだろう。父但馬守が柳生新影流をビジネス的なシステムに造り上げたのに対して、十兵衛は我が道を行く求道者の雰囲気があります。父よりも祖父の石舟斎に似ている。ルパン三世しかり、金田一少年しかり、才能は隔世遺伝されるのです(いや両方フィクションです)。

 ストーリーは、身内を惨殺した「会津七本槍」への復讐を誓う「東慶寺の女たち」の手助けを十兵衛が行う、という感じで基本的に十兵衛は七本槍と闘うのを避けます。あくまで手を下すのは女たち。その段取りをつけるポジションにいる。十兵衛はかなり強い設定になってるので、直接バサバサ倒さない。にしても爽やかっぷりがかっこいいです。

 この作品を気に入ってるのは、ラストの一行、十兵衛のセリフに尽きますね。この一行を活かす為にこれまでの全てがある、といってもイイぐらい好きです。胸が締めつけられます。切ない。切ないです。


 

●「魔界転生」(講談社文庫/上・下)

 知名度で言えばダントツ、でしょうが恐らくそれは映画版によるものだと思います。印象悪いんじゃないでしょうか。そして、原作の小説は紛れもなく傑作。忍法帖最高作品に推す人も多いです。

 前作「柳生忍法帖」では裏方に回っていた十兵衛も、今回は最初から剣を抜いていきます。何と言っても敵の黒幕森宗意軒が復活させる転生衆」、このメンツが凄い。天草四郎・荒木又右衛門・田宮坊太郎・宮本武蔵・柳生但馬守・宝蔵院胤舜・柳生如雲斎。この歴史上の超メジャーな剣豪達が、作品の序盤3分の1を費やし、紹介エピソードとして復活する背景が書き込まれています。この復活の理由が山田節なんですが、憎悪がひしひしと伝わってくる凄まじさです。

 物語自体の転がり方もメッチャ面白く、十兵衛と「転生衆」の闘いも一戦一戦が絶妙です。シチュエーションも墓前やら天守閣やらうならせるものばかりです。中でもやはりラストバトルに尽きます。(以下赤い部分はネタバレです

 宮本武蔵との舟島(巌流島)対決、燃えます。十兵衛が完全に佐々木小次郎と同じ立場に立っての対決。太陽を背にした武蔵の六尺七八寸の長木剣を相手にいかに闘うか。凄いです。山田の答えも流石としか言いようがありません。

 もう、ドリームマッチ連発のこの作品、読むしか。


「柳生十兵衛死す」(時代小説文庫/上・下)

 「柳生忍法帖」「魔界転生」に続く、いわゆる十兵衛三部作の掉尾を飾る作品。

 実は自分としては、この作品は十兵衛を主役に据えてはいるものの、前2作の続編と思えないんですが。理由として、「由比正雪と十兵衛がファーストコンタクトっぽい」「徳川時代十兵衛の隻眼が今までと逆」などがあります。特に後者は、今回二人の十兵衛が出てきて、それぞれ潰れてる目が対称になっているのでちょっと混乱を招きます。これは単純に山風が自分の書いたもの(柳生忍法帖/魔界転生)を忘れていたからではないかと思ってます。それぐらいどうとも思わなそうです。それが山風。まあ、作品の面白さにしてみれば些末です。

 内容は、これまでの2作のような剣劇主体の割と直線的なストーリー進行とは趣を変え、江戸と室町の二つの時代を行き来する多重構成。今二つの時代を行き来すると書きましたが、これ何の比喩でもなくあっさりタイムトリップします。それが山風。その時間遡行に用いられるのが、能。

 そして今まであまり触れられてなかった「柳生新陰流」「柳生陰流」という流派に対してもアプローチがなされています。ビジュアルとして「陰流→姿を消す」「新陰流→分身」と、双方共にフェイク技になっていて、これは「陰流→殺気を消して斬る」「新陰流→殺気を複数放ちながら斬る」ものなのかな、と感じました。どちらにしろ、殺気を拾えるほどの達人向けの剣術という印象。

 邂逅する二つの時代、二人の十兵衛、二つの流派、これらが見事に収斂する一大エンターテインメント。そんなワケで当「柳生十兵衛死す」、山風が生んだ稀代のヒーロー・柳生十兵衛のラストを飾るに相応しい作品です。

(20011215)


●「明治断頭台」(ちくま文庫/山田風太郎明治小説全集7)

 山風の一連の明治物はちくま文庫で全集として入手可能な状態になっています。この明治物、実在した歴史上の人物を作中にさり気なく折り込んだ趣向や、怪異・推理・伝奇性など山風がそれまで培ってきた全ての小説技巧が詰め込まれた面白作品集です。

 その中でこの「明治断頭台」は取り分け「本格推理」の要素が強い作品です。探偵役として出るのは香月経四郎。この男、太政官弾上台大巡察という名の役職の元、明治開化期に水色の袴装束、額には黛、手に檜扇をたずさえた出で立ちで、新政府の世を練り歩く。

アホです。こいつアホです。

 まあ、とは言っても勿論探偵役なので非常に頭の切れるキャラクターです。他、川路利良(史実上の人物。後の初代警視総監ですが、ここではまだ一警察官)、フランス美女エスメラルダ等といった魅力的なレギュラーによって物語が進む連作短編集です。

 実は、この作品は物理トリックがメインで、僕の好みに合わないと思いながら読んでいました。超絶技巧的最高傑作ミステリと評されるコトが多い作品なのですが、自分の求めていた内容ではなさそうだと感じていました。が、ラスト30ページに至ったとき、その考えが一気に吹き飛びました。

マジで凄いって。

 読後、興奮のあまり部屋の中を無意味に歩き回ったほどです。やられました。ホントにやられたよ。もし全裸の優香に抱き着かれたとしても、この時ほど心拍数上がるかどうか疑問です。激オススメ。


●「人間臨終図巻」(徳間文庫)

 いま、2冊目を読んでいます。非常にきついです。この「人間臨終図巻」は山田風太郎作品でもかなり高評価されてる事の多い作品なんですが、僕には非常にきつい。何がきついかと言えば、

「黄疸」「食道静脈瘤出血」「肝不全症状」「脳膜炎」...

と言った具合に、病名などががぞくぞく並んでいます。

病名、苦手です。

 1巻はまだ若い時期に死んだ人間の記録なので、むしろ非業の死が多かったんですが、この2冊目は「56歳から72歳で死んだ人々」の死に様が収録。この辺りの年齢になると病死が多くなってます。病名の羅列を見てると気分が悪くなってきます。

 僕は昔から生物の授業などが苦手で、人体構造についての話を聴いてるだけで本気で吐き気を催していました。授業中気分の悪さのあまり机にうつぶせになったりしてました。端からみたら非常に態度悪かったと思います。本人的には死にそうな思いだったんですが。

 この「人間臨終図巻」も、そのような全く個人的な理由により、読了に異様に時間がかかるコトが現段階で予想されています。

(20010609sat)

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 病名の羅列を見ているだけで気分が悪くなるという全く一身上の都合により、読了まで非常に時間がかかりました。上の日付けをみると6月になってます。まだ「3」が残ってますが、これには73歳から121歳で死んだ人々が収録なので、この辺までくればきっと大往生を遂げているでしょうから、スイスイ読み進めれるハズ。多分。

 この2巻目で取り分け心に残ってるのが、アンデルセン(享年70歳)。あの有名な童話作家が「デンマークのオランウータン」と呼ばれる程の醜男だったとは。それでいて自分は幸福だと神に感謝する、へこたれない前向き加減に感動しました。世の中を呪っても仕方がないっすね。そんな前向きっぷりが人を惹き付けるコトにも繋がるでしょうし。でも「みにくいあひるの子」は彼なりに自身を美化してみた話なのでは?なんてちょっと考えたりもした自分。

(20011208)

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 3読了。

 読んでも内容を忘れてしまうんですが、それもまた死に逝く人の思い出に似る。いま気取ったコト書きましたヨ! この3集は73歳から121歳で死んだ人が収録されています。大往生も数名いますが、やはり多くがチューブだらけで苦痛に揉まれグダグダになってくたばっていきます。

 筒井康隆が「(人間の死に様をコレクトするのを)着想した時点で勝利」ぐらいの発言をしていたかと記憶してるこの「人間臨終図巻」ですが、僕には読み進めるのが辛かったです。「2」の時にも書きましたが、病名を見てるだけで気分が悪くなるので。ふと疑問に思ったんですが、筒井が褒めるのって価値があるのでしょうか。筒井って割と毒舌野郎なので褒めるなんて珍しいのでは?と勝手に思い込んでしまってるんですが。実際は和製キングとかだったりするかも知れません。

(20020814)


●「長脇差枯野抄」(廣済堂文庫)

〜裏表紙口蓋〜

面影一家の親分を殺し娘お香代を監禁、縄張りを乗っ取った百首一家。その知らせを江戸で聞いた忘れずの塔五郎。恋人の身を安じ、三度笠に殺気の風をはらませ面影村に馳せ戻り、百首一家の暴虐を撃滅。晴れてお香代と祝言を挙げ一家を構えたものの、塔五郎ブームは急速に衰え、村に異変が......。表題作他「妖僧」「宗俊烏鷺合戦」「山童伝」「起きろ一心斎」「死顔を見せるな」「売色奴刑」「盗作忠臣蔵」の7篇を収録。

 表題作の「長脇差枯野抄」、これが山田らしい皮肉の利いた作品です。昔話の「こうして王子様とお姫様は幸せに暮らしました。めでたしめでたし」というハッピーエンドに対して、ホントにハッピーか? それで終わったのか? と、物語の続きを考えてみたのがこの作品。前半部は上に引用した口蓋の通りで、ごくごく普通の物語元型に則った展開。そして塔五郎とお香代が祝言を挙げてからがこの作品の醍醐味です。ていうか悲惨。

 最近、漫画でリメイク.続編ブームになってますよね。「魁!男塾」の続編「暁!男塾」「北斗の拳」世界の後継者「蒼天の拳」など。

 んで、僕が驚いたのは、シティハンターの続編がコミックバンチで連載されてるのですが、シティハンターのヒロインだったいきなり死んでる事です。シティハンターの物語で完結している読み手にしてみれば、この設定はショックでした。作者的にはどうなのか。

 似たようなケースにアクションゲーム「ファイナルファイト」の主人公コーディが「ストリートファイターシリーズ」で再登場した時、囚人に落ちぶれていたってのがあるんだけど、こっちはたいして衝撃を受けませんでした。自分でもこの辺何故だか分かりませんが、香はショック。

 更に、こんなにもショックを受けていながら、自分はシティハンターのラストを覚えていないのにも驚きです。

(20010613wed)


「死言状」(角川文庫)

 エッセイ集です。裏表紙に書いてある「現代の徒然草」という表現の方がしっくりきます。

 本人もあとがきで述べてますが、ときたまアルツハイマー発動で同じ内容を繰り返しています。アルツハイマー発動なんて述べてませんが。リフレイン連発、一向に構いません。こっちも忘れてますから。

 ある程度のテーマ毎に、大きく5章に分けられていますが、一番興味深く読めんだのが4。ここでは主に乱歩や吉川英治、漱石そして自身の作品などについて触れられています。山風の漱石ファンっぷりに影響を受けて僕も全集読み出したんですが、結局途中で止まってます。最後に読んでから3年近く経ってるかなあ。「戦中派虫けら日記」でもトルストイ読みたくなったし。影響受けやす過ぎですね僕。

(20020814)


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