梅原克文


「ソリトンの悪魔(上・下)」(ソノラマ文庫ネクスト)

2016年、日本の最西端・与那国島の沖合に浮かぶ完成間近の海上情報都市<オーシャンテクノポリス>は謎の波動物体に直撃され、突如海の藻屑と化した。都市を支える1万本の巨大な脚柱が脆くも崩れ去る衝撃は、近海で操業中の海底油田採掘基地<うみがめ200>と海底牧場を遊覧中の観光用潜水艇をも巻き込み、危機に瀕した油田基地と娘の救出を試みる、倉瀬厚志の苦闘が始まった。

 梅原克文ですよ。梅原克文。

「で、自衛隊さ。あそこは事実上失業者救済機関だからな。」

なんつうイカした台詞連発の「二重螺旋の悪魔(角川ホラー文庫)」でおなじみ梅原克文です。もう、この人の書くSFはグイグイ読ませます。ページがどれだけあっても、読み始めたら苦にならない文章の流れの良さがあります。

 デビュー作「迷走皇帝(エニックス文庫/梅原克哉名義)」は対象年齢を考えての結果か、ためらいがちな、非常に中途半端な作品でしたが、「二重螺旋の悪魔」、そしてこの「ソリトンの悪魔」は、一見読み手に伝わりずらいような(難しい)素材/題材でもためらわない、しかもそれを確実にエンターテインメントに昇華した内容になっています(ちなみに両者共「〜の悪魔」というタイトルですが、世界観は別物です)。

 本書下巻のあとがきに引用されている、梅原克文自身のSFへの考え方がとても心地良い。以下青字が引用。

>SFの語源であるサイエンス・フィクション。これは現実世界を疑似科学アイデアによって外挿する小説形式であり、大衆娯楽でした。元祖SF作家のヴェルヌとウェルズはエンターテインメント作家そのものであり、大ベストセラー作家だったことは歴史的事実です。これがSFの基本形式です。
しかし、SFでは伝統の形式、大衆娯楽小説としてのSFを古典SFと呼びます。そして、それは時代遅れだとさえされています。古典SFがより進化したのものが、前衛文学じみた「現代SF」とされているのです。
しかし、伝統の形式を頑固に守っているミステリーやハードボイルドのジャンルはますます繁栄しています。(うらやましい)。
一方、元祖ヴェルヌとウェルズ以来の、サイエンス・フィクションの形式を受け継ごうとしないSFはどうなったでしょうか?
ご覧の通り頽廃しました。
「現代SF」なるものは前衛文学であり、娯楽小説であるサイエンス・フィクションとは別の文化であることは明らかです。なのに、よそものが活字SF界に侵入してきて、伝統の文化を汚染してしまったのです。これが「SF冬の時代」の真相なのです。

言いも言ったりでこっちも気分爽快になります。そして、この発言に反するコトなく、梅原克文小説はエンターテインメントに徹しています。

 当「ソリトンの悪魔」は、終始に渡って海を舞台にストーリーが進みます。危機、打破の連続でまさに手に汗握る展開。ピンチピンチのジェットコースター。このテンションの持続力は半端じゃないです。前作「二重螺旋の悪魔」でも世界最強クラスの強敵が存在していましたが、この作品でもまた別の世界最強クラスの生命体が登場します。素人サイドの自分としては発想すら沸かない強敵です。

 作中に登場する色々な小道具も、昨今のSFならそのアイデア一つを無理矢理引き延ばして1作にしちゃうようなおいしいネタ。惜しみなく、エンターテインメントの部品にジャカジャカ使っちゃってます。今、純粋に読者を楽しませる作品を書くSF作家は梅原克文とダン・シモンズぐらいです。読め。

(20020612)


活字中毒記へ

トップへ


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送