司城志朗


●「存在の果てしなき幻」(カッパノベルス)

九つの娘が事故に遭った。知らせを聞いて、病院へ。だが娘は入院していない。家に帰ってみると、妻がいない。犬もいない。冷蔵庫にはトランクスと靴下が冷えていて、預金通帳も判子も権利証もない。ふらふら会社に戻ると、オフィスは空っぽで、事務員もいない。すべてがまたたくうちに消え去って、そして妻殺しの容疑がふりかかってきた----麻宮達彦、四十二。果てしない幻のような人生に翻弄された男の静かなる死闘。

 この作家の作品を読むのは初です。帯に「これは、まさに安全網無しの空中ブランコのようなものだ---矢作俊彦」とあります。矢作俊彦が誰なのか分かりませんでしたが、巻末の著作リストを見ると、初期はこの矢作俊彦との合作を行なっていたようです。

 そんなワケで、以前合作していた相手が帯推薦してる辺り、身内同士の馴れ合いに見えて(=他に推薦する人がいない)、この小説あんまり面白くないんじゃないかと考えちゃったりしそうですが、読了感想としては、幾つものアイデアがぶち込まれた上質の作品という印象を受けました。

 冒頭で主人公が世の中全てがおかしくなっているのに気付き、これはどういうコトかとあれこれ調べ始めます。この段階でオチが見えます。(これでラストまで引っ張るのかよちょっとキツいよ)などと感じたのですが、その謎についてはかなり初期に解決されます。そして、そこから更に謎が積み重ねられていきます。

 もう「?」の連発で、一つ謎が解決されても更に謎が出てくる。ラストはフーダニットとして着地しますが、正直ここはどうでもイイ。途中の更に更にな展開がまさに「空中ブランコ」でした。

 何を追ってるのか読者にもちゃんとわかるデクスター(モース警部モノ)という表現が自分的にしっくりきます(モース警部モノ、分けわかんないです)。色んなコトがどんどん出てくるので大技一発ラストに決めるタイプの作品ではないんですが、この謎の積み重ねに味を感じました。

(20020127)


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