多島斗志之


●「症例A」(角川書店)

 多島作品で取り分け印象深いのは「密約幻書」「聖夜の越境者」など、逆転が待ち構えてるミステリ。この辺は連城作品にちょっと近いものがあると思ってます。あまり言いたくないんですが、「密約幻書」なんて自分が今まで読んだ『どんでん返しベスト5』に入るミステリです。何故あまり言いたくないかと言えば、そう言っちゃうコトで構えて読んでしまうからです。いま言っちゃいましたけどね。

 作者自身も、著者近影などを見るに何だか男前でカッコイイです。いつの写真だか知りませんが。

 んで、この「症例A」、「密約幻書」とは違う作風なんですが、非常に興味深く読めました。異なる作風でも面白かったってのが自分としては嬉しい。たいてい「手札の多い作家」ったら、気に入るとしてもその中のどれか一つの手札(作風)だったりするコトが多いので。これ以前にも「海賊モア船長の遍歴」という作品が従来の多島節と一線を画す内容でした。これもまた海洋アドベンチャーとしてワクワクしながら読めた作品。多島、結構色々なコトに挑戦してます。

 「症例A」は、精神病理を扱ったもので、異なる2つの視点が一応ミステリとしての収斂を見せますが、この作品の醍醐味はそこよりも、精神病理へのアプローチ、ここがとにかく楽しい。楽しいというか興味深く読めました。書いているコトの一つ一つが慎重ですね。帯の香山リカの推薦文、

>精神科医の倫理とは、正常と異常の境界とは......? この作品の登場以降、“こころの問題”を興味本位で書くことは許されない

まさにこの通りの慎重な内容。サイコもののブーム以来、ファッションで乱出する精神異常者や、文学的レトリックで扱われる聴いた風な言い回し『誰もが多重人格である』などへの警鐘もあり。(自分の興味のあるジャンルだからかも知れませんが)衒学部分が楽しめたのは久々でした。

(20020328)


●「CIA桂離宮作戦」(徳間文庫)

極寒の地シベリアを肥沃な穀倉地帯にする!!---これは建国以来のソビエトの夢だ。その実現のためにソ連は《気候改造》を計画している、との情報をキャッチしたCIAは、日本の内閣情報調査室に共同作戦を提案してきた。内調室長稲月修造とCIAのバリンジャーの作戦は、来日中のソ連国家計画委員会議長ミハイルを誘拐して訊問しようというものだ。そして、その場所に選ばれたのが、京都の桂離宮だったが......。

 僕の持つ多島斗志之の作風印象は「文章の平易な連城三紀彦」という感じで、ラストに2度3度どんでん返しを仕掛けてくれる作家というイメージです。そう感じたのは読み始めた初期で、最近は色々な作風のものにも触れたために一色ではないのですが、この「CIA桂離宮作戦」は初期の作品で、「ああ、こうだったこのどんでん返しが多島斗志之だった」と思い出した1作です。

 この作品ではひっくり返し方が今一つスマートに思えなかったのですが、安易にどんでん返しを謳ってる数多の作品より遥かに巧妙な逆転が炸裂されるのはいつもながらです。もっと多くの人に広まってもおかしくない質の高い作品を創り続けてる作家なんですが、イマイチメジャーになり切れてない感じです。タイトルが安っぽいからでしょうか(暴言)。

(20021110)


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