島田荘司


 島田荘司の本格推理にかける情熱はとても伝わります。綾辻行人を筆頭に、いわゆる新本格陣と呼ばれる作家を発掘した偉業など、往年の乱歩をも彷佛させます。

 もちろん島田荘司自身、有名な御手洗潔シリーズを始め幾多もの作品を出しています。彼自身が提唱している『ミステリには不可解で幻惑的な謎から始まる』の通り、執筆されてた作品(僕の読んだ範囲では)は(一体どう着地させるんだ?)と思わせるほどに、尋常ならざる謎から始まっていました。ただ、その謎は確かに論理的に解明されるんですが、

謎を構成してる要素が、まずあり得ない一瞬の偶然が起こってしまったというのが多めな気がします。

パズル的に条件を当て嵌めるとそれしか考えられない、だから真相となるのかも知れないけど、偶然が関与し過ぎ。あんまりです。

 「占星術殺人事件」のウケ方を勘違いしたのか、作中にかなり長い別物語を挿入するのも読む側としてはちょっとツラい。その別物語に、本編に対する微妙なヒント/伏線が収められてはいるんですが、作者が興味があって(もしくは物語で起こる事件のルーツ考証の為)調べ事をして、調べた以上勿体ないので水増しも兼ねてドボンとブチ込んでいる感じにすら思えてきます。いやあんまりにもそのまま入ってるので。

 社会問題を上手く取り込みミステリへと昇華する手際は流石ですが、その一方、サブカル的なものに関しては把握できてない感じもします。特に、やおい/同人といった方面に。まあ、知らない方が普通かも。

 竹本健治「ウロボロスの基礎論」連載第二回に、作品(主に御手洗)ファンの女性達から送られてきたパロディ同人誌を島田荘司がどう受け止めたか、こんな一節があります。

もっとも、そうした方面に全く疎い島田さんは、描かれたパロディ・マンガの意味するところが理解できず、綾辻君にこれはいったい何だろうねと尋ね、そもそも〈ヤオイ〉なるものはというところからレクチャーを受けたらしい。それで島田さんがはっきり納得したかどうかは甚だ疑わしいところだが、ともあれその世界に注ぎこまれる尋常ならざるエネルギーに興味を抱いた島田さんは、そこからもっとクリエイティブなものを引き出せないかという発想で、あたかも新本格に対するのと同様、彼女たちを全面的にバックアップしようと思い立ったのである。

この「ウロボロスの基礎論」という作品はどこまでホントか分からないんですが、この辺りに書かれてるコトに関しては、その後の島田荘司の暴走ぶりから推して測れます。何だか、自作のウケ方をホントよくわかってないズレた作家という印象があります。

真面目なんだけど、天然です。


●「占星術殺人事件」(講談社文庫)

 金田一少年にパクられたコトで有名。講談社で出していた金田一少年公式本みたいなヤツで、「Yの悲劇」や「十角館の殺人」などオススメミステリを幾つか紹介していたんですが、流石に「占星術殺人事件」は入っていませんでした。パクリパクリ言われてるのに、蘇部健一の某作品に関してはほとんど触れられていないのは悲しいです。蘇部が。

 冒頭の長い手記が見事に不気味さとミスディレクションを成している作品です。トリック構成に偶然も関与してないし。純粋に一目瞭然な上に新しいトリックが考え出されるなんてコトはそうないので、この1作でも島田荘司は充分なのかも知れません。

●「斜め屋敷の犯罪」(講談社文庫)

 読了して冒頭の屋敷見取り図を見るとなるほどと思わせる作品。が、やっぱ物理トリックは自分の好みじゃないなあ。

 これは講談社文庫版の関口苑生の解説が無茶苦茶。綾辻に私怨をぶちまけてるだけ。何でこんなガキに解説依頼したんでしょうか。

●「異邦の騎士」(講談社文庫)

 御手洗潔・最初の事件。しかし、御手洗モノでこの作品を一番最初に読むのはよしたほうがいいと思われる作品。御手洗モノに限らず、目下読んだコトのある島田荘司作品では最も好きですね。ダントツに感動。記憶喪失の男が、もう切ない。

●「暗闇坂の人喰いの木」(講談社文庫)

 背徳の博物館がイカす。ワトソン役/石岡和己の痴呆化はこの辺から始まったのか? その扱いの変化は古畑任三郎に於ける今泉みたいな感じです。シリーズのブランクが空き過ぎて作者がキャラ設定忘れたんじゃないだろうか。

●「水晶のピラミッド」(講談社ノベルス)

 松崎レオナかなり出てます。御手洗へのラブラブな部分が書かれてる作品。ほとんどレオナが一方的にですが。そしてトリックはまたもや大味。

●「眩暈」(講談社文庫)

 次の「アトポス」同様扱っていいのか的内容。冒頭の平仮名文章が「アルジャーノンの花束を」を髣髴させます。でも島田荘司にとっての「アルジャーノンの花束を」は「占星術殺人事件」だと思います。

 ダニエル・キイスは「アルジャーノンに花束を」を『自分でもどうしてこんな作品が書けたのか分からない』と語ってますが、「占星術殺人事件」も、その後の社会派全開の御手洗モノを読むと、何だか天然の産物にしか思えない異色な出来。

●「アトポス」(講談社文庫)

 先日読了した森博嗣の「今夜はパラシュート博物館へ」にも後味の悪い短編がありましたが、この「アトポス」もまた、(こんな際どいテーマをエンターテインメントたるミステリにしてイイものか)と感じた作品です。でもきっと島田本人は至って真面目に社会問題に取り組んだんだろうなあ。

●「龍臥亭事件」(上・下/カッパノベルス)

 とにかく、長っ。御手洗潔を脇に避けて、シリーズでワトソン役をつとめる石岡和己が事件に関わる作品。例によって作中に長い物語が挿入されているんですが、今回は「津山三十人殺し」。ミステリとしての謎も解明もあるんですが、読後の印象は社会派小説です。この辺まで来ると、「津山三十人殺し」のぶち込み方も調理ゼロの素材まんまで、上手く融合させれていない印象です。

(20020125)


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