乙一


●「失踪HOLIDAY」(角川スニーカー文庫)

 2編が収録されていますが、両作で相反する性格の主人公を扱った内容になっていながらも安定した上手さがあります。作者のストーリーテラーとしての力量が伝わります。

「しあわせは子猫のかたち」

 短いながらも「失踪HOLIDAY」よりもこちらの方が人気があるような感じです。主人公の繊細な性格に共感を覚えるのかも知れません。ちょっと引きこもり野郎っぽいんですが、羽住都の美麗なイラストであざとくカバー。

 不可思議なものが不可思議なまま進行するのが乙一の味の一つかも、と感じました。そこはそれでいい。やさしい雰囲気の中、突如切り込んでくるシビアな事実。その事件で主人公が成長を見せるラスト。ベタで基本的な話かも知れませんが、荒んでる自分の心が洗われる思いです。

「失踪HOLIDAY」

 主人公の一人称で話が進むんですが、こちらはうって変わって行動派のお嬢さん/ナオが主人公。父の再婚相手が気に喰わないので家出を敢行、それがどんどんエスカレートしていき狂言誘拐を演じるまでに発展。やり過ぎ14歳。

 主人公の設定が正反対に思えますが、「しあわせは子猫のかたち」同様、ミステリしてる/主人公が心境を変化させ踏み出す/作品を包むやさしさ、と基本部分で共通する匂いを感じます。


●「夏と花火と私の死体」(集英社文庫)

「夏と花火と私の死体」

 執筆時作者は16歳だったというコトで結構有名なデビュー作。にしても「乙一」って世界一画数の少ないペンネームを狙ったのでしょうかね。

 この作品は9歳の少女/五月の一人称の語りで進むんですが、この五月が途中で死にます。語り手が死んでどうなるかと言えば、死んでからも彼女の一人称で進みます。

 彼女の死体をどうにか隠し通そうとする兄妹、その二人の様子を淡々と実況中継。別に(私の死体どうするのよ!)的な感情もなく、ひたすら淡々と語ります。ここが妙な味を醸し出しています。幽霊のような状態になってるのではなく、あくまでも『周りを観測する死体』の視点という感じです。ヌイグルミなどのモノの視点という感じでしょうか。

「優子」

 デビュー作が天然の産物ではなかったと、乙一の力の程が知れ渡った作品です。読み手の予想を想定して書いたであろうストーリー展開が楽しい。新本格のラインですね。

(20020222)


●「死にぞこないの青」(幻冬舎文庫)

飼育係になりたいがために嘘をついてしまったマサオは、大好きだった羽田先生から嫌われてしまう。先生は、他の誰かが宿題を忘れてきたり授業中騒いでいても、全部マサオのせいにするようになった。クラスメイトまでもがマサオいじめに興じるある日、彼の目の前に「死にぞこない」の男の子が現れた。

 理不尽ないじめが構成されていく様子を読者は目の当たりにします。この作品にいじめ脱出の答えの一つが掲示されているように思えました。マサオの小心ぶり、自罰型人間ゆえの泥沼突入がとても痛々しい。

 言われた(注意された)コトをきちんとクリアしようとするマサオ。理不尽で矛盾に満ちた要求を、マサオなりに理解して無矛盾化しようとしてるのがけなげです。

 過去の自分とも照らし合わせつつ、小学生にとってみれば先生(大人)は完璧で絶対的な存在なんだなあ、と、そんな考えに思い至りました。僕が小学生だった時に僕を教えていた先生、その年齢に今の自分が到達してるとしてみても、とても子供の頃の自分が考えていたような「年齢」の存在とは言い難い。那由多遥の具がどうだの言ってる大人ですから。

(20020421)


●「石ノ目」(集英社)

 以前この乙一というペンネームは画数最小を目指したのだろうかと疑問を持ち、それに対して掲示板にて明友さんより回答を頂いたのですが、その辺の話がこの本の冒頭に記されていますね。

石ノ目

 乙一作品読むのちょっとあいてた為、最初の内は普通にミステリと思って読んでました。ミステリ的な要素もありますが。この短編集としてはジャブ的ポジションです。

はじめ

 言い訳に用いた架空の「はじめ」なる少女が現実に目の前に現れる話。はじめとは何者か、序盤では合理的解釈を求め(読者も考えるであろうコト)、色々と推考する登場人物ですが、その不合理な謎は物語的にどうでもよくなる。この不可解さを不可解なままで受け入れるってのは乙一作品の特徴かも。

 切なくてしんみりするラストです。

BLUE

 命を持った人形達の話。当短編集では一番のお気に入りです。あとがきは照れ隠しでしょうが、軽く台無しです(ウソ)。

平面いぬ。

 ジョジョっぺえ。吉良のオヤジっぺえ。乙一がジョジョ4部ノベライズってのも納得。

 ちなみに最後の「。」は、アサヤンのテロップの癖で常に付いてるものがそのまま正式名称になったとのコトです。これは平面いぬではなく、モー娘の話ですが。

(20021015)


●「天帝妖狐」(集英社文庫)

A MASKED BALL -及びトイレのタバコさんの出現と消失-

 トイレの落書きコミニュケーションってのは解説で我孫子武丸が述べてるように、ネットにおける掲示板の書き込みチックな面白みを感じます。このハンドルネームで書き込んでるのは誰だ?という感じでミステリ風の味わいも出てます。

 ラストでホラーに展開しますが、ホラーになろうがなるまいが、乙一の創作スタンスとしてはきっとどうでもイイんじゃないでしょうか。

天帝妖狐

 ファンタジー的な化け物を、化け物サイドの視点をふんだんに盛り込みその葛藤/悲愴を描いてる作品。怪物にもそうなったまでの歴史がある、という感じでしょうか。ゲームで瞬殺されるザコ敵に徹底的に感情移入したかのような作品です。こんなの乙一しか書きません。

 読後に物語の骨組みを思い出すと、割と昔からよくあるタイプの内容に思えてくるんですが、読んでる時の印象はまるで違っていました。

(20021025)


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