小野不由美


「黒祠の島」(祥伝社NON NOVEL)

その島は風車と風車に溢れ、余所者には誰も本当にことを話さなかった---作家葛木志保が自宅の鍵を預け失踪した。パートナーの式部剛は、過去を切り捨てたような彼女の履歴を辿り、「夜叉島」という名前に行き着いた。だが、島は明治以来の国家神道から外れた「黒祠の島」だった...。そして、嵐の夜、神社の樹に逆さ磔にされた全裸女性死体が発見されていた...。島民の白い眼と非協力の下、浮上する因習に満ちた孤島連続殺人事件の真相とは?

 イントロがえらくハードボイルドっぽいですね。いやモロハードボイルドかな。そんな『女を探せ』的手法で物語が開幕し、読者同様に主人公/式部剛もまっさらなトコロから情報を入手していきます。

 そういう意味では、読者も主人公と同じ視点で同様の情報が得られるのですが、どうにも主人公が興味を持つトコロと読者が興味を持つトコロで開きがあるような気がします。そこで得られる情報(閉鎖的な島のルール)がラストに非常に意味を持ってくるのですが、読んでる最中は探偵役との意識の開きを感じさせる前半部です。ハードボイルドながらも探偵とのシンクロ率が低いです。ていうかこの辺は衒学小説読んでる気分でした。式部剛、宗教に興味持ち過ぎだよ。

 まあ、デクスター作品のモースなんかに至っては、興味のシンクロ率が低いどころか事件の最中何してるのかすら分からないので、式部剛はまだ追いやすいほうですけど。

 ラストの収斂は圧巻です。この瞬間にこの作品が本格ミステリの様相を明らかにします。それまではホラーかとも思ってましたから(例え裏表紙口蓋に本格推理と紹介されてても)。ここに至るまでの執拗なまでの特殊な閉鎖ルールの説明が、理解し難い動機を説得付ける為のものであったコトが分かります。

 一つの世界そのものを作り上げ、その世界内で最初で最後のネタを捏ね繰り回して使い切るというのは、西澤作品にも通じるものがあります。

(20030119)


活字中毒記へ

トップへ


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送