梨木香歩


●「西の魔女が死んだ」(新潮文庫)

中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変わるひと月あまりを、西の魔女のもとで過ごした。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも......。
その後のまいの物語「渡りの一日」併録。

 主人公がまいという名の女の子なので、巨乳で美尻で露出の高い格好をしたエロエロ女という先入観で読み進めちゃうんじゃないかと不安だったのですが、そんな如何わしい不安を抱いたのは懸念に終わりました。ちゃんと子供の主人公として読めました。

 これは、まあ何と言うか、ほのぼのとした、優しい気持ちになる物語ですねとでも言うと思ったか。ラストは確かにそういった締めなので、その部分の印象が残りそうですが、これはむしろ、非常に厳しいメッセージの込められた物語かも、と感じました。

 自分を律するコト、制するコトの重要性が伝わります。現状に甘んじ惰性で生きている人には、そうした自制はとても厳しい生き方です。何より、惰性で生きれちゃうのが現実。そこにあえて規律を自分で設け、その規律に従うというのは難しいものがあります。理解は出来る、でも行動にはなかなか移せない。そんな事柄の一つです。

 表題作に加えて収録されてる「渡りの一日」ですが、併録というよりもこれも含めて一つの話という感じがしました。この「渡りの一日」の成長したまいの姿を知って、逆にその過去である「西の魔女が死んだ」のまいが愛おしくなりました。個人にも歴史がある、そんな当たり前のコトを上手く伝える効果を出しています。

 「渡りの一日」は文庫化で初めて併録されたようで、ハードカバー(?)で表題作だけ読んだ場合とは読後の印象が微妙に異なりそうです。

(20021201)


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