向山貴彦


●「童話物語(上)大きなお話の始まり/絵:宮山香里」(幻冬舎文庫)

世界は滅びるべきなのか? その恐るべき問いの答えを得るために、妖精フィツは地上へとやってきた。最初に出会ったひとりの人間を九日間観察して判断することがフィツの使命。しかし、フィツがたまたま出会ったのは極めて性格の悪い少女ペチカだった......。

 この上巻ではペチカという13歳の少女の歪み放題の性格と、フィツとの出逢いによって故郷から逃げ出さなければならなくなった彼女の旅が描かれます。

 序盤、ペチカがいじめられるシーンが半端じゃない。高い釣り鐘台へと登る途中で梯子を揺らされたり、モップを口にねじ込まれたり。まあ、作品によっては口に無理矢理ねじ込むってのはとても魅力的なシチュエーションですが、タイトルの「童話物語」から勝手にほのぼのした話を予想していたのでびっくり。

 ペチカがゆっくりと優しい心を開いていくってのはまあ基本ですが、とりわけ上巻の名シーンと言えるのが、フィツが小さな虹をかける場面です。これを読んでいた時は何気ないほのぼのムードを出す演出程度に思っていたんですが、下巻の口絵でこれに絡んだクライマックスが浮かびかなり燃えました。

 この文庫化に関して、単行本時にはなかったクローシャの設定資料として「クローシャ大百科事典」が添付されています。


●「童話物語(下)大きなお話の終わり/絵:宮山香里」(幻冬舎文庫)

妖精フィツとの突然の別れから一年、十四歳になった少女ペチカは大都市パーパスで暮らしていた。初めて幸せを手にしたかに見えたペチカだったが、世界の最後を告げる「妖精の日」はすぐそこまでやって来ていた......。すべてが崩壊へと向かう中、始まるペチカの最後の旅。

 ルージャンの壁登り能力がどうしてもシコルスを思い起こさせます。それはさておき下巻は一気にクライマックスへと雪崩れ込みます。井辻朱美の言葉、

>宮崎アニメを一本観たのと同じような感覚体験をさせてもらった本書

この言葉が、この作品に対して自分的にも同様の感想です。巨大な敵とそれに立ち向かう者、守るべき存在、など終わってみればきっちり物語原型を押さえていた作品です。話の途中ではその辺の骨格に捕われずに読み進めていたんですが、ホント終わってみれば、ああ、という感じ。

 この作品に関する作者のホームページはこちら「童話物語メモリアル」。

(20020213)


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