宮部みゆき
●「心とろかすような」(創元推理文庫)
俺の名前はマサ。蓮見探偵事務所の用心犬だ。飼い主で所長の浩一郎氏、長女で短大卒業後、父親と一緒に女性調査員として働き始めた加代子--通称加代ちゃん、末っ子で美術方面に進みたいと思っている高校生の糸子--糸ちゃん、それに前作『パーフェクト・ブルー』事件で蓮見一家と親しくなった諸岡進也青年......どんなことにも真っ向から立ち向かおうとする俺の大好きな人々の活躍ぶりを通して、人生の素晴らしさ、ほろ苦さをお伝えできれば、これにすぐる喜びはない、いやほんと。俺の名前はマサ。元警察犬のジャーマン・シェパードだ。
宮部みゆき作品はグイグイ読ませますね。キングの作品が相当好みらしく、テンポのイイ文章で読み手をページターナーに変貌させるあたり、どことなく似ているように思えます。
宮部みゆきはあざといですね。あざといなんて表現は悪いように聞こえるかも知れないけど、あざとい。
あざといとしか言い様がない。
泣かせる、胸に来る、そんなツボを心得ていると思わせる描写がバンバン出てきます。
当作品は犬の一人称で話が進行する連作短編集。「心とろかすような」「てのひらの森の下で」「白い騎士は歌う」「マサ、留守番する」「マサの弁明」の5編収録。どれも宮部みゆきらしい、優れた人間洞察を感じさせてくれる作品です。
主役のジャーマン・シェパードのマサを扱った作品としては、デビュー作「パーフェクト・ブルー」(こちらは長編)があります。デビュー作から犬の一人称という異色なコトをしていた宮部みゆき恐るべし。
(20010723mon)
●「R.P.G.」(集英社文庫)
ネット上の疑似家族の「お父さん」が刺殺された。その3日前に絞殺された女性と遺留品が共通している。合同捜査の過程で、「模倣犯」の武上刑事と「クロスファイア」の石津刑事が再会し、2つの事件の謎に迫る。家族の絆とは、癒しなのか? 呪縛なのか?
宮部みゆきは売れる作品を書く作家で、しかも売れ行き通りの実力を誇る希少な小説家です。その分「理由」や「模倣犯」という作品などハードカバースタートが多くて、しかも迷惑なコトにそれらの作品、非常に評価が高い。読みたいんだけど貧乏な自分には手が出せないこの現状。そんな作家が文庫書下ろしなんて、夢みたい。
あと、宮部みゆきと言えば相当ゲームに精通しているコトでも有名です。ゲームをせずに攻略本を読んでるだけでも楽しいなんて感じの発言もどこかでしていた気がします。そんな宮部みゆきです。当作品、タイトル「R.P.G.」からDQやFFめいたものがちょこっと思い浮かんだんですが、どうやらこれは元来の意味『役割を演じる』からのものみたいです。
ネット上で父や母や子を演じての疑似家族。こういうものは直感的にネガ指向に結論付けられそうですが、作中ではその良し悪しについてディベートされていても、別に答えは出されていない様子。宮部みゆきの慎重さが伺えます。
小説に限らず、「キャラクターを作りあげる」コトに関するネタが集約されている印象を持った作品でした。
どうでもイイ部分ですが、裏表紙口蓋に「模倣犯」やら「クロスファイア」などといった著作タイトルが出てくるトコロに出版社サイドの宣伝根性を見ました。
●「人質カノン」(文春文庫)
人質カノン/十年計画/過去のない手帳/八月の雪/過ぎたこと/生者の特権/溺れる心 以上7編収録
落ち穂拾い的な1冊なんですが、一作一作いつもながらの面白さを持っています。面白いんですが、僕がそろそろ飽きてきたのかこれといった印象深い作品が見当たらない。宮部みゆきの作品はどれも水準以上の安定した完成度を誇っているので、代表作を挙げられない作家ですね。ちょっと東野圭吾を思わせます。
(20021005)
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