マイケル・スレイド


●「ヘッドハンター」(上・下/創元ノヴェルズ)

その女性の残殺死体には、首がなかった。またしても犠牲者が出たのだ。それにしても、犯人はなぜ首を斬って持ち去るのか。やがてある日、新聞社に数枚の写真が送りつけられてきた。そこに写ってたのは、杭に突き刺された被害者の頭だった! 連続殺人鬼〈ヘッドハンター〉の挑戦状に、色めきたつカナダ牙警察特捜本部。いまやヴァンクーヴァーの街はパニック寸前だ。本部長ディクラーク警視の焦燥は深まるばかりだったが......。

 翻訳は2作目の「グール」が先だったのですが、マイケル・スレイドのデビュー作がこれ、「ヘッドハンター」。ちなみにマイケル・スレイドは3人(当時)から構成されるユニット作家です。

 2作目の解説のラストにある「はたして、毀誉褒貶相半ばか、賛否両論議論百出か、はたまた各界絶賛の嵐か、豈図らんや嘲笑と黙殺の洗礼を受けるか、疾風怒濤のサイコスリラー界にとどめをさす」、これはまるで清涼院流水みたいです(これを読んだ当時は流水まだ出現してませんでしたが)。んで、僕ははっきり言って凄い好きなんですよ。TVドラマの「沙粧妙子最後の事件」でサイコスリラーというジャンルにハマって色々と読んでみて、自分的にビビっときたのがこのマイケル・スレイド。とんがってます。

 デビュー作「ヘッドハンター」は内容のグロさもさるコトながら、ディクラーク側、警察側の徹底的な捜査の模様の書き込みがハンパでない。警察モノとしても読めます。そしてやはり特筆すべきは異常極まる残酷描写。陰惨かつ吐き気を催すほどに欠落した倫理観、どうしようもないラストなど、この作品を読んでいたから「ハンニバル」にさほど衝撃を受けなかったのではないかと思う程です。

 ヘッドハンターの正体は伏せられていて、フーダニット形式のミステリとしても楽しめます。そして、その正体を予測する事など誰も不可能。


●「グール」(上・下/創元ノヴェルズ)

〈下水道殺人鬼〉〈吸血殺人鬼〉そして〈爆殺魔ジャック〉。ロンドンはいま、跋扈する複数の殺人鬼に震撼していた。ニュー・スコットランド・ヤードには特捜部が設置され、女性警視正ヒラリーは大規模な捜査の陣頭指揮に立った。しかし彼女はまだ知らない。殺人鬼たちの背後に蠢く究極の殺人鬼〈グール〉の存在を。しかも事件の連鎖は、海を越えてカナダ、さらにはアメリカにまで延びていったのだった! ヒラリーに勝機はあるのか?

 そして第2弾。翻訳が先だったのは、この作品「グール」のインパクトの強さでようやくスレイドという作家が発掘されたものと推測してます。そして、目下翻訳されている3作中最も強烈なラストが待ち構えてるのがこの「グール」。

 時代が呼び出したのか、複数の快楽殺人者が一様に跋扈するロンドン。しかも殺人報道を知って、相手に負けてられるかとライバル心を燃やすなど目立ちたがり屋な殺人鬼もいてロンドン大迷惑。対抗する警察側の主役は、スコットランド警視正ヒラリー・ランドとカナダ騎馬警察警部補ジンク・チャンドラー。ロンドンとカナダ、この二つの地で進んでいた話が一つに纏まっていくカタルシス&カタストロフィ。特にチャンドラーがアクションバリバリで読んでて爽快です。

 正直B級感覚の文体ですが、それをものともさせない怒濤のストーリー展開。もう、大好き。


●「カットスロート」(上・下/創元ノヴェルズ)

1876年、カスター中佐率いる第七騎兵隊はインディアンの総攻撃を受けて全滅。そして死屍累々たる戦場から、人間の二、三倍はあろうかという奇妙な頭蓋骨が持ち去られた---1987年、香港からの一人の〈刺客人〉がアメリカの地を踏んだ。送り込んだのは、巨大企業を牛耳るクワン一族総帥。彼の目的は人類進化の謎、“ミッシング・リンク”の存在を突き止めることにあった! この途方もない野望に、〈刺客人〉が果たす役割とは!?

 「ヘッドハンター」のディクラークと「グール」のチャンドラーが組んで捜査を進める第3弾「カットスロート」、この作品ではそのタッグを相手にするのに相応しい、強大な敵が登場。世界的大企業を統括する関括蘇と彼が送り込む暗殺者カットスロート。関括蘇の拷問の手口やカットスロートの殺しっぷりのエグさがもうとんでもない。

 更にサルからヒトに進化変遷してきたものと仮定した場合、どうしても欠落している段階『ミッシング・リンク』がストーリーにがっしり絡み付いてくると言う、いきなりもの凄いスケールアップぶり。ここまで書いててまた流水を思い出してしまったんですが、超一級エンターテインメントです。

 巻末の解説で触れられている第4弾の翻訳が未だされていないってコトは、日本ではイマイチだったのでしょうか。やっぱ流水を思い出す。あとこの解説に「グール」の内容に触れている部分があるので未読の場合要注意。 

※実は登場人物紹介に誤植があるのでここに書いておきます。
ロータス・クワン.........マーティンの×→マーティンの

確か読んだ時(ああ、ここ間違ってるな)と記憶してるので付記。記憶違いだったら済みません。

 

 ちなみに、今日のリドミ更新報告文は「クリスマス・大切なあの人にこの本を贈ってみては?」にします。 

(20011218)


●「髑髏島の惨劇」(文春文庫)

呪われた伝説の島、髑髏島。残虐な連続殺人鬼が街を恐怖で覆う中、推理ゲームの探偵役として島に集められた15人の男女は、邪教を崇拝する殺人鬼が仕掛けた死の罠の餌食と化す......。

 スレイド作品第4弾で、ようやく翻訳されました。長かったです。「カットスロート(発売/1994年)」のあとがきではすぐ翻訳されるような感じに受けたのですが、結局版元も文春に変わって8年後にようやく発行。本当に長かった。いやあ、旧作よっぽど売れなかったんだろうなあ。旧作も今では絶版らしく、「譲って頂けないでしょうか」メールを受けたコトもあります。カルトで一部のファンに根強い人気の作家なのかな。

 この作家の作品はいくつかの視点がひたすら切り替わる手法を取っていて、今作では大きく3つの視点で物語が進行します。

1:クレイヴン視点/現行の猟奇殺人の追跡
2:ディクラーク視点/切り裂きジャックの謎を追跡
3:チャンドラー視点/推理ゲームへの参加

 他にも犯人や参加者などの細かい視点が入りますが、大きく以上の3つ。序盤では1・2が多めで、中盤から3が多めになります。

 クレイヴン視点では、相変わらずの警察サイドの専門的な調査の描写が冴えます。僅かな証拠から可能性を少しずつ狭めていくゾクゾク感があります。部署毎の専門家/プロフェッショナルがホントにプロフェッショナルという感じで『ここまでやるのか』的凄みがあります。

 ディクラーク視点は「切り裂きジャック事件」への新解釈という感じでしょうか。迷宮入りした事件は様々な仮説が語られますが、この史実に対する、タロットを絡めたスレイド流の解釈がディクラークを通して語られています。

 んで、チャンドラーが参加する推理ゲームが、密室/孤島などいわゆる本格推理的な小道具で固められています。が、この本格小道具部分は正直パンチが弱く感じました。僕が機械トリックを好まないってだけですが。

 それよりもこの推理ゲームの面白い要素は、スレイド節全開の恐怖感覚が集中してるトコロ。バッサバッサと参加者が殺されていくのですが、殺され方が心底イヤになります。この作家は読んでて『ああ、こんな状態になったらツラい/苦しい/本気でヤだな』と思わせる描写が上手いです。この人の発信する『恐怖』は、僕の受信でも直接『恐怖』としてキャッチされます。スレイドキャラに生まれなくて良かった。

 真犯人(推理ゲームの真のホスト)は一体誰か、それを知りたくてページを繰らせる作品です(ラストはスレイド作品中ではちょっと弱いんですが)。ミステリ読みが、初期に推理小説をどう楽しんでたかったら、やはり犯人当てがメインだったと思います。純粋に意外な犯人に驚きたい。そればかりを気にして読み進める。そんな初心を思い出させてくれた1作です。

 ただ、スレイド作品は本当にキチガイぶりに満ちあふれているので、あまり他人に勧めるのは人格を疑われるので気を付けて下さい。僕は女性に勧めたコトあるけどな。

(20021204)


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