麻耶雄嵩


 とても試みの高い作家です。1作毎に作風が変わっているのですが、根底にあるのは、ミステリ史の定理/常識をもミスディレクションに組み込んだ作風・玄人向けな味わい。麻耶雄嵩と殊能将之、この二人はいまミステリの地平最前線ギリギリに立ってると思います。

「ニューウエイヴ・ミステリ読本(原書房)」でのインタビュー、本格としてのテーマ性が作中でほとんど説明されてないという質問に対して、麻耶雄嵩はこう答えています。

>書き手の立場としては、読者がどれぐらい本格を知っているかを想定するわけですよね。それでもともと本格を読みたいという人が読むわけですから、ある程度は知っているんじゃないかと。少なくとも自分ではそういうレヴェルの読者を設定しているわけです。それが高すぎると言われたらしょうがないんですけど。

いややっぱ高いでしょう。

 次に、立命館大学推理小説研究会でのインタビューでの一節、ここに非常に麻耶作品を読み解くヒントが隠されてる気がしてならないので、コピペ。

――様々な形で神に言及されていますが、神についてどのような考えをおもちですか?

麻耶 神が本当に存在するのかというのにはそう思い入れはなくて、寧ろ信仰の方ですね。どう存在させれば信じられるのか、という。

――神を信仰している人に対して興味がおありになるということですか?

麻耶 昔からいろいろ経緯があるじゃないですか。神の存在を理論的に証明しようとか。ただ、新興宗教とか、そういうのにはあまり興味は無いんです。変な理屈を捏ねて、どうやったら信仰できるのかっていうことを考えるのが好きなんです。

 というワケで、麻耶雄嵩作品は、あまりミステリ擦れしてない時期には読んで欲しくない作品ばかりです。そんな時期に読んでもワケが分からないですし、何よりもったいない。普通のに飽きてきた頃に読んで欲しいですね。


翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件(講談社ノベルス)

 どんでん返しに次ぐどんでん返し、というワケでその部分を当初は純粋に楽しみました。ミステリの記号を記号通りに処理しない(例えば双子)突き抜けぶりが凄い。メルカトル鮎のキャラだけでも儲けもの。

夏と冬の奏鳴曲(講談社ノベルス)

 全編に漂うキュビズムの思想が心地よいです。そして、合理的な解決を諦めてはならない。作者のクイーンへの嗜好ぶりを知れば、前作がアレ作シリーズだったのに対して、こちらはソレ部作が仕組まれているのがどことなく見え隠れ。更に上記引用のインタビューでの言葉なども加味すれば、何となく分かったような分からないような。

痾(講談社ノベルス)

 このタイトル、推理小説50音目録でトップにくるようにしたものと邪推。如月烏有という人物が描き込まれるコトで「夏と冬の奏鳴曲」を分かり難くしてるんじゃないのかと思います。

あいにくの雨で(講談社ノベルス)

 うって変わって青春ミステリ。というかこんな本格的な諜報活動に講じる高校生イヤすぎ。

メルカトルと美袋のための殺人(講談社ノベルス)

遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる/化粧した男の冒険/小人閑居為不善/水難/ノスタルジア/彷徨える美袋/シベリア急行西へ/以上7編収録

 メルカトル鮎とワトソン役/美袋三条が登場する短編集。タイトルからしてやってくれます。論理性でスパスパ謎が解決される珠玉の作品ばかりです。「水難」の女の子の幽霊の扱いや、「ノスタルジア」でのメルカトルの自作小説の解決解説など、ハッとさせられるものばかりです。

鴉(幻冬舎)

 「傑作『夏と冬の奏鳴曲』を超える、本格推理のさらなる神話的最高傑作誕生!」という帯は仰々しいかとも思います。「奏鳴曲」に拒絶反応した人には手に取ってもらえなくなるし、「奏鳴曲」好きにはちょっと物足りない。らしくない長編かも知れませんが、やはりカタストロフィは避けられないラスト。

木製の王子(講談社ノベルス)

 この作品と殊能将之「黒い仏」を読めば、解決不可能とも思える「夏と冬の奏鳴曲」の真相への道が開けます。多分。

 

(20011225)


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