加納朋子


●「ななつのこ」(創元推理文庫)

ファンレターとラブレターは、勢いで出すに限るのだ。短大に通う十九歳の入江駒子は『ななつのこ』という本を衝動買いし、読了後すぐに作者へファンレターを書こうと思い立つ。先ごろ身辺を騒がせた〈スイカジュース事件〉をまじえて長い手紙を綴ったところ、思いがけなく「お手紙、楽しく拝読致しました」との返事が。さらには、件の事件に対する、想像という名の“解決編”が添えられていた! 駒子が語る折節の出来事に打てば響くような絵解きを披露する作家佐伯綾乃、二人の文通めいたやりとりは次第に回を重ねて......。

 これから僕が書くコトは、未読の方にとって、非常な危険を含んでいるかも知れない。

 いや、安心して頂きたい。ネタバレではない。ネタバレという程のものではない。

 しかし、この作品をまだ読んでいない人が、今後「ななつのこ」を読む機会に触れた時、きっとただならぬ影響を与えかねないコトをこれから言う。更には、ひょっとすると既に読んでいた人にとっても、この作品に対する印象を一転させるかも知れない可能性をも秘めている。

 それは、この作品の主人公、入江駒子に関する一つの事実である。ひょっとしたら、既読の方は僕と同じ考えを持っているかも知れない。持っていなくても、どこか引っ掛かっていたハズだと思う。更に言うなら、これは作者の意図したコトなのかも知れない。

 この作品は入江駒子の一人称で進行する。

 この、入江駒子のキャラクターに関するコト。これはもう誰かが既に言ってることかも知れない。

 しかし、あえて言う。言わずにいられない。

 入江駒子の独白で紡がれるこの物語。この入江駒子の語り口、

 

ちびまる子ちゃん思い浮かんだしょ?

ちなみに僕まだこの作品読み終えてないのでネタバレしないで下さいね。

(20010511)

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 てなワケで、読了。途中から頭の中で「CV:TARAKO」だったのは自業自得。連作短編集です。7編の物語からなる同名の童話「ななつのこ」を作中作として織り込んだ、入江駒子の日常に於ける7つの謎の物語。構成の妙技もさることながら、内容もまた上質の一冊。すこぶるハートウォーミング。

 加納朋子は「日常の謎」をメインに扱ってる為、よく引き合いに出されるのが北村薫なんですが、エピソードそれぞれで、最終的に啓示される解決と関連性の高い伏線のさり気ないちりばめ方にむしろ泡坂妻夫の狡猾さを見た(とはいっても本人は作家になるまで泡坂妻夫読んでなかったそうな)。

 この連作集、中でも感動したのが「一枚の写真」「白いタンポポ」。この2エピソード、泣ける。「一枚の写真」なんて電車の中で読んでて目に涙が浮かんできてしまい、これはヤバいと思い慌ててコンタクトずれたフリしたし。純粋に、物語そのものが上手いですね。そこに更に加わるミステリの計算式、この構成力に圧倒されました。

(20010512)


●「魔法飛行」(創元推理文庫)

私も、物語を書いてみようかな---入江駒子のつぶやきは「じゃあ書いてごらんよ」の声にあっさりと迎え入れられた。幾つも名前を持ってる不可解な女の子との遭遇、美容院で耳にした噂に端を発する幽霊の一件、学園祭で出逢った〈魔法の飛行〉のエピソード、クリスマス・イブを駆け抜けた大事件......近況報告をするように綴られていく駒子自身の物語は、日々の驚きや悲しみ、喜びや痛みをたたえ、謎めいた雰囲気に満ちている。ややあって届く“感想文”には、駒子の首を傾げさせた出来事に対する絵解きが。

秋、りん・りん・りん/クロス・ロード/魔法飛行/ハロー、エンデバー 以上連作4編収録

 前作「ななつのこ」の流れを汲むほのぼのした感じの連作です。3つ目の「魔法飛行」が素敵。明確には記されていないにしても、ラストのペンライトの意味を考えるとニヤニヤしてきます。ロマンチック全開です。こんなイカした男女のやり取りは現実には難しいですね。

 全体的にほのぼのモードがありつつも、それぞれの物語の解決がイマイチでパンチが弱いと思っていたんですが、最終エピソードの「ハロー、エンデバー」でこの印象ががらりと変わりました。終わっていた今までの物語の新しい面が浮かび上がると同時に、とてもシビアな展開を見せます。人間/人生の優しさのみではなく、厳しさが描かれています。この「ハロー、エンデバー」1作で全てが引き締まっています。

 ラストを読み終えて、表紙に立ち返るとグッときますね。

(20020109)


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