今邑彩


●「大蛇伝説殺人事件」(カッパ・ノベルス)

旅行先の島根県松江市のホテルで、画壇の巨匠・月原龍生が失踪した。同じころ、出雲大社内で男の肉体の一部が発見される。さらに島根県各地のスサノオを祭る神社から次々と同じ男のバラバラ死体が。鑑識によって死体は月原と判明。だが、ホテルは月原が外出できない特殊な状況に......。何故、ヤマタノオロチの如く月原は解体されたのか? そしてスサノオの意味は? 月原の妻・芳乃の調査依頼を受けた探偵・大道寺倫子は、かつて月原をオロチと読んだ男の存在を知り、真相を追うが......。

 最近の今邑彩は「蛇神」といい「翼ある蛇」といい、何だかヘビヘビしてます。ヘビっていうかヤマタノオロチですか。この「大蛇伝説殺人事件」もヤマタノオロチが主軸になっている作品。「蛇神」一回で終わらせるには勿体ないネタだと思ったのでしょうか。出雲伝説を調べてるうちに作者がヤマタノオロチの魅力にハマったのかも。「蛇神」「翼ある蛇」がミステリ的演出を持ったホラーなのに対してこの「大蛇伝説殺人事件」は真っ向からミステリです。

 んで、作品を読んでの感想ですが、今邑彩は上手い人だと思います。グイグイ読ませるタイプの文章に感じますし、何よりトリックを成り立たせる動機/理由付けが見事。今作の密室構成のネタにしても、一読パッとしない感じがするかも知れませんが、前例も思いつかないし(←ミステリなら当然のコト、と思うでしょうが、実際には前例のあるトリックが用いいられる作品も多いです)、かなりゾクゾクしてくるモノでした。

 暴きや余韻がくどいと感じるかも知れませんが、これも個人差があるでしょう。探偵が予想した動機を犯人自身が繰り返すって部分に特にくどさを感じるかも知れませんが、憶測だった部分を明確にしておきたいという作者の性格の現れとして好意的に捉えたいです。

(20020116)


●「盗まれて」(中公文庫)

ひとひらの殺意/盗まれて/情けは人の....../ゴースト・ライター/ポチが鳴く/白いカーネーション/茉莉花/時効 以上8編収録

 かなりのクオリティを誇る短編集です。あえて言うなら「ひとひらの殺意」がややパンチが弱いと感じたぐらいで、どの作品も非常に上質。短編集ゆえに登場人物が少なく、犯人当てとしては呆気無いのではないのか、と思われるかも知れません。が、どれも一筋縄ではいかないものばかりです。感触としては連城三紀彦に近いものがありました。現段階での僕的今邑彩ベスト1がこの短編集です。オススメ。

(20020116)


●「ブラディ・ローズ」(創元推理文庫)

美しい薔薇園に包まれた邸に相澤花梨は嫁いだ。二番目の妻良江が謎の墜落死をとげた直後。邸には主の苑田俊春のほか、足の悪い妹、家政婦、お手伝い、園丁が済む。最初の妻雪子への思慕が邸内に満ちる状況下で、早々と三番目の妻花梨に向けられる何者かの憎悪! あなたは雪子になれない、良江の二の舞、と告げる脅迫状が次々届けられる。

 見事にダマされました。途中一瞬「犯人」が頭をかすめたのに、どうして放棄してしまったのか。それはこの作品も「新本格」で括って、(恐らくあの路線だろう)との思いに捕らわれてしまったから。終盤の方で(やはりあの路線か)と安心しちゃったし。これってあの路線と思わせようという確信犯なのか? 見事に裏切られました。感激。

 まだ読んでいない人には、これはフーダニット(犯人当て)として挑戦してもらいたいです。読み終わってから「犯人」の心理を思うとゾクゾクきます。

 ヒッチコック映像化作品の「レベッカ」の本歌取りというか変奏曲らしいんですが、それ観ていない。もしかしたらその「レベッカ」こそがあの路線なのかも。それぐらい仕込みがあの路線オチに向かって突き進んでいたし。さっきからあの路線ばっかでワケわかんない感想で済みません。

(20020317)


活字中毒記へ

トップへ


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送