服部まゆみ


「この闇と光」(角川文庫)

失脚した父王とともに、小さな別荘に幽閉されている盲目の姫君・レイア。優しい父と侍女のダフネ、そして父が語り聞かせてくれる美しい物語だけが、レイアの世界の全てだった。シルクのドレスや季節ごとの花々に囲まれた、満ち足りた毎日。しかしレイアが成長するにつれて、完璧だったはずの世界が少しずつ歪んでゆく。

 少女革命ウテナとこの作品の共通性を絡めた解説は何だか凄いです。力作。解説書いてるの鷹城宏ってコトで納得。「本格ミステリ・ベスト」でコミケやヤングアダルトをよく担当してる方でした。

 この作品については感想が書き難いですね。事前に持つ印象が驚きに繋がるので。一応ミステリってコトまではバラしてもいいかなってぐらい。裏表紙にレイアが盲目って書いてあったんですね。この作品、レイアの一人称で物語は語られているんですが、読み始めて少し進むと何かしら違和感を感じて、盲目だと言う事が明かされます。小ネタながらも驚きの一つだと思うので隠してイイ情報かも。二階堂黎人の「私が捜した少年」の文庫化の時みたいに。

 「この闇と光」、中盤で起こる2つのサプライズが素敵。ネタ的には今までの推理小説でひょっとしたら既出のものかも知れませんが、料理次第で充分驚きを持たせられる感じです。

(20011213)


「ハムレット狂詩曲」(光文社文庫)

「劇団薔薇」新劇場の柿落としで、「ハムレット」の演出を依頼された、元日本人で、英国籍を取ったケン・ベニング。
ケンにとって、出演者の一人である歌舞伎役者の片桐清右衛門は、母親を捨てた男だった。
ケンは、稽古期間中に、清右衛門を殺そうと画策するが......。

 まず、江守徹の解説を最初に読んではいけません。思いっきりネタバレしてます。畑違いの人が解説を担当するとこういうケースになるコトが多いので気を付けたい。ただ、本編読了後に読んだ場合、とても興味深い内容になってます。

 この作品は演出家のケン・ベニングと、作中にて「劇団薔薇(そうび)」でハムレット役をあてがわれた片桐雪雄、この2人のそれぞれの一人称のパートが交互に展開されます。

 冒頭に簡単なシェークスピア作「ハムレット」の要約が載っていて、読み手としてはこのオリジナルの「ハムレット」のストーリーが「ハムレット狂詩曲」という当作品にどうなぞらえてあるのかが気になるトコロでしょうか。「ハムレット」はケンか、雪雄か、それが問題。というワケでもなく僕はあまり深く考えずに読んでましたけど。

 口蓋やタイトルに含まれるハムレットという言葉から予想しがちな陰惨な復讐ミステリではなく、全体的に明るく陽気な雰囲気に包まれた作品でした。ちょこっとケンの言葉で舞台に対する皮肉めいた発言があったりしてやはり僕はそういうのが楽しいんですが。一応最後にどんでん返しが用意されていますが、ミステリ、というよりも舞台を扱った青春小説といった感じ。そのどんでん返しも明るくひっくり返してくれます。

(20020526)


「黒猫遁走曲」(角川文庫)

愛しい猫、可愛いメロウ、美しい、優しい......私の天使......。どれくらい捜したことか? 目につくかぎりを、思いつくかぎりの手段を講じて。
森本翠が三十八年間勤務した出版社を定年退職した日の夜、メロウは山ほどの花と薔薇色のシャンパンの隙間をぬって、戸外にはじきだされた!?
黒猫メロウの捜索と、スターを夢見る隣人の殺人事件がクロスして...。

 「古典名」+「○○曲」というタイトルは「ハムレット狂詩曲」に継承されたのかな。

 昭平、ルリ、ミドリの3者それぞれの一人称が交錯して展開する物語。妻を殺してしまいその死体の処理にてんやわんやの昭平と、黒猫捜しにマンションから双眼鏡で辺りを覗くミドリ。昭平は双眼鏡で見渡してるババアの存在に気付き、妻殺しを見られたのではないかと危惧。

 この作品は何もギミックがありませんでした。えー、正直感想も何も出てこないんですけど。読んでる最中に僕が想像した仕掛けとしては、

1:昭平の妻殺しとミドリの黒猫捜しで時間が異なっている。つまり、昭平が気付いた双眼鏡ババアはミドリとは別人で、ミドリが見た不振な振るまいを見せる男も昭平とは別人。

2:昭平の妻殺しとミドリの黒猫捜しで場所が異なっている。マンションとアパートの組み合わせが2箇所ある。

 という新本格系のトリック。あと他には、

3:ミドリは昭平の妻殺しを知っていたが、猫が大事な彼女にとって別にどうでもイイコトだった。

 なんてサイコチックなのも頭を過りました。まあ、全部はずれでしたけどね。外れなのにどうして反転させてるのかと言えば、作者がそう思わせようとした偽のオチかも知れないし、未読の人が読んだ時僕同様そのオチを予想しながら読むかも知れないからです。『ロクにオチがない』と既に一種のネタバレしちゃってますが。

 恋愛小説的なほのぼのしたムードもありますが、ぶっちゃけババアの恋愛話なんて汚いだけで楽しくなかったです。あ、ペダントリー小説(特に実名は挙げてなかったんですが「黒死館」辺り)をバカにしてるような描写があったのですが、そこは面白かったです。

(20030211)


活字中毒記へ

トップへ


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送