半村良


●「完本妖星伝」(1・2・3/祥伝社文庫)

鬼道の巻/外道の巻/神道の巻/黄道の巻/天道の巻/人道の巻/魔道の巻

神道とともに発生し、超常能力をもってつねに歴史の闇に潜み暗躍してきた異端の集団---鬼道衆。彼らの出没する処、必ず戦乱と流血、姦と淫が交錯する。彼らを最も忌み嫌った徳川政権は徹底的な弾圧を繰り返した。が、八代将軍吉宗が退いた今、鬼道衆の跳梁が再び開始された!

 例えば、家畜は肥えさせられる為に餌を与えられているを解するに至るだろうか。

 と、いきなり意味不明なコトを書き出してしまう程の作品がこれ「妖星伝」。あまりメディア感想に「凄い」という言葉を使わないようにしたいんですが、凄いとしか言い様がないのが「妖星伝」。この祥伝社文庫版は講談社から全7巻として出されたものを2/2/3で3冊に収めた合本バージョンです。

 各巻に高橋克彦/京極夏彦/綾辻行人の推薦文が収められていますが、「あらゆるメディアを凌駕する」「ただ瞠目するばかり」「『傑作』などといった月並みな讃辞ではとても済ませられない」と、もうひたすら絶賛。内容はその絶賛に負けないどころか遥かに上回る凄まじさを見せつけてくれました。

 ストーリーは、下野壬生の領主鳥居家に不穏な雰囲気が漂うトコロから始まります。仲睦まじき領主鳥居丹波守とその妻。鬼道衆の跋扈により、この夫婦に破滅が齎される。鬼道衆という悪役の紹介プロローグだな、と考えるこの辺りまではお約束。

 んで、鬼道衆には十二家が存在し、それぞれの当主には宮毘羅/伐折羅/迷企羅といった具合に十二神将の名が振られている。この鬼道衆が崇めているのが外道皇帝という謎の空位。

 ここで僕が想像したこの「妖星伝」のストーリー展開が、この鬼道衆を敵役にして徳川あたりの先鋭部隊が活躍する山風忍法帖的なバトルもの、だったのですが、この予想はもうちょっと読み進めたトコロでいとも簡単に吹っ飛ばされます。想像を上回る、予想不可能な展開とはこのような作品のコトを言うのでしょう。しかも長大な作品でありながら、中弛みする事なく、過程過程全てがエンターテインメントしてる内容です。

 哲学/宇宙論/世界の全てをぶち込みながら、破綻を感じる事もなく、敵も味方も何もない主役不在の視点でグリグリと進む超伝奇SF。更にとんでもないのは『人間の存在意義』に半村的答えを出しているコト。

 『人間の存在意義』などというスケールの半端でない問いの答えは、得てしてどうとでも取れる漠然としたものになったり、誰もが知ってるコトを言い方をちょこっと細工した倫理的なものに落ち着きがちなのですが、半村良は逃げる事なく、SF的見解として明確に創作しているのが流石です。

 1巻の高橋克彦の推薦文にある「小説があらゆるメディアを凌駕するものだということを、読者は読み終えたとき実感するに違いない」、これ見事に決まってます。

(20020110)


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