グレッグ・イーガン


「順列都市」(上・下/ハヤカワ文庫)

記憶や人格などの情報をコンピュータに“ダウンロード”することが可能になった21世紀なかば、ソフトウェア化された意識、<コピー>になった富豪たちは、コンピュータが止まらないかぎり死なない存在として、世界を支配していた。その<コピー>たちに、たとえ宇宙が終わろうと永遠に存在しつづけられる方法があると提案する男が現われた......

 SFです。物語のフォーマットは「何か発明→その発明がエスカレート→問題が起こる→解決してやっぱ最初(自然)が一番」と、SFの基本的な形式に則っています。長編SFですが、スペースオペラ式ではなく、骨組み自体は短編です。ぶっちゃけそういう部分ではドラえもんと同じなのですが、途中のシミュレーションが徹底して描かれているので異様なまでの硬質さを持っている作品です。

 物語はポール・ダラムの<コピー人間>の意識の実験と、マリアの仮想世界での生命の進化、この二つを軸に展開。他にも、若い時に恋人を殺した罪の意識に追い掛けられる<デジタル・コピー>の大富豪トーマス、そしてVR世界に隠れ住むピーとケイトという恋人たち等と言ったエピソードが加えられていてますが、その辺は長編用の水増しキャラにも思えますし、メインテーマを描くには余計な存在かも。

 余りにも書いてるコトが理解出来ずイライラする作品ですが、上巻終盤で、ある登場人物同様突如開眼させられる瞬間を感じました。

 メタに、読み手に世界の構造の可能性を考えさせる部分が出てきます。このアイデンティティを揺さぶる感覚は、ヨースタイン・ゴルデル「ソフィーの世界」や竹本健治「匣の中の失楽」を読んだ時にも感じたんですが、この作品では更に押し進めた(もしくは限定した)、存在の「連続性」に対する不確実性を考えさせられました。

 ここがメインテーマだと気付くと、特に新鮮味のない章の時系列シャッフルなどもテーマへの還元を思わせ何か感動です。

 ラストはちょっとドタバタしててベタなんですが、全体を通して描かれる哲学性の余韻に浸れる1作です。それにしてもホント文章が硬質で用語がイチイチ難解です。SFファンは十全に理解して読んでるのだろうか。恐ろしいです。

(20030119)


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