E・C・タブ


 E・C・タブっていうか、デュマレスト・サーガですね。創元推理文庫として昔出版されていたスペース・オペラで、僕にとってかなりの原体験となってるシリーズです。背表紙が黒で「○○の惑星●●」という統一タイトルの作品(シリーズ)を古本屋で見かけたコトはありませんか? それがこのデュマレストサーガです。

 1巻の訳者あとがきからの引用で内容を説明すると、

時は遥かな未来、人類は銀河系の無数の星に散らばり、『地球』という名の惑星など、すでに記録にすら残っていない。

銀河連盟なるものが存在したのか、少なくとも現在は数星系単位の独立国家に分裂し、それぞれ独自の政体、文化をはぐくんでいる。各惑星間には貿易が営まれ、絶えず宇宙船が行き交っている。貨物とともに当然、人間も流れる。観光、商用、そして......流浪。

定住の星を持たず、まさに身一つで生命ぎりぎり、見果てぬ夢を追ってさすらう彼らは渡り者と呼ばれていた。

主人公アール・デュマレストはそんな渡り者の一人、自分の故郷---誰も名前すら知らぬ惑星---地球を捜してさすらっている。

そんな彼の軌跡と事あるごとに交差し、彼ら独自の目的を秘めているがゆえに必然的に敵対することになる存在があった。一切の感情、情緒を断ち、純粋知性を究極の目標とするサイバーと呼ばれる特殊な人間たちの組織サイクランがそれである......。

 何ですかねえ、この世界観でノックアウトですよ。きらびやかさよりも、退廃した未来観に惹かれます。宇宙船で繋がっていながらも、各惑星(舞台)ごとに物凄く貧富/文明の差が激しいんですが、これはある意味今の世界をそのまま宇宙にスケールアップしたようなものですね。星を国と置き換えれば。貿易/宇宙船(地表)で繋がっていても脱出が不可能に近い星(国)もある、そんな感じで。

 世界観を更に小粋にしているのがSF的小道具。高速代謝や下等(ロウ)による船旅など、この宇宙なりの共通ルール/ギミックが、僕のツボにギシギシきます。

 主人公アール・デュマレストのキャラクターも気に入ってます。少年漫画的なベタベタに熱血しまくるヒーロー然としたキャラとは違う、大人のヒーローです。身体能力に優れていながらも(スピードとナイフ捌きが凄い)その力/能力を抑え隠しがちで、忍耐強い。頭脳に関しても緻密な上に回転が早く、したたかな面も持ってるキャラ。やはり大人キャラです。この世界観設定の大宇宙を生き抜いてきた人生経験を感じます。

 そんな彼の目的が、少年時代に飛び出した故郷の惑星「地球」へと帰るコト。何故帰りたいのか。その理由は何だかもう無いに等しく、もはや帰巣本能にも近い。そして故郷から離れ渡りついた今の場所(星系)では、「地球」という星が伝説/おとぎ話の存在になっていると言う。人類が一つの星で発生したなんてことはありえない、実在しない惑星だ、と誰もがまともに取り合わない。そんな中、地球への僅かな手掛かり/情報を頼りにアールは星を彷徨い渡る。

 冷静なアール・デュマレストが、どんなにワナの可能性が高くても飛び付く「地球」に関する情報。強く計算高く生存本能に長けている(つまり、余計な危険を回避しがちな)主人公を動かすのに充分な設定だし、それよりもこの地球がすでに伝説という設定自体が素晴らしい。

 このデュマレストサーガは、僕の読書史で殿堂入りしているシリーズです。

 すでに絶版して久しいこのシリーズですが、ここ数年古本屋で見つける度に購入して結構そろってきました(3分の2程)。以前は全31巻持っていたんですが、実家に置いておいたら親に捨てられました。再読してみて驚いたのが、面白い。正直、ガキの時分に読んだ作品なので自分の中で思い出と共に美化されているのではないかと思っていたので、驚きました。まるで風化していない。目下、復刊ドットコムにて復刊運動がなされています。僕も票を投じています。興味を持った方は是非投票の程を。タダですから。

 更に、幻の未訳の32巻の存在も明らかになっています。こちらの方も読みたいコトこの上なし。シリーズ復刊の際これも訳して欲しいなあ。

(20011228)


《デュマレスト・サーガ  DUMARESUT SAGA創元推理文庫SF

1.嵐の惑星ガース  The Winds of Gath (1967)
2. 夢見る惑星フォルゴーン  Derai (1968)
3. 迷宮惑星トイ  Toyman (1969)
4. 共星惑星ソリス  Kalin (1969)
5. キノコの惑星スカー  The Jester at Scar (1970)
6. 聖なる惑星シュライン  Lallia (1971)
7. 科学惑星テクノス  Technos (1972)
8. 植民惑星ドラデア  Veruchia (1972)
9. 幻影惑星トーマイル  Mayenne (1973)
10. 誘拐惑星オウレル  Jondelle (1973)
11. 流血惑星チャード  Zenya (1974)
12. テクノ惑星カモラード  Eloise (1975)
13. 秘教の惑星ナース  Eye of the Zodiac (1975)
14. 虚像の惑星バラドーラ  Jack of Swords (1976)
15. 悪夢の惑星ホーガン  Spectrum of a Forgotten Sun (1976)
16. 野望の惑星ハラルド  Haven of Darkness (1977)
17. 死霊の惑星ザキム  Prison of Light (1977)
18. 希望の惑星アス  Incident on Ath (1978)
19. 砂漠の惑星ハージ  Web of Sand (1979)
20. 刺客の惑星ヒアカーヌ  The Quillian Sector (1978)
21. 空想惑星エスリン  Iduna's Universe (1979)
22. 秘薬の惑星エリシウス  The Terra Data (1980)
23. 異形の惑星クルディップ  World of Promise (1980)
24. 天翔ける惑星ザブル  The Terridae (1981)
25. 女帝の惑星ジュールダン  The Coming Event (1982)
26. 真珠の惑星サカウィーナ  Nectar of Heaven (1981)
27. 鳥人の惑星ヘブン  Earth Is Heaven (1982)
28. 超能力惑星バーツ  Melome (1983)
29. 遊民の惑星ライカン  Angado (1983)
30. 生命の惑星カスケード  Symbol of Terra (1984)
31. 最後の惑星ラニアン  The Temple of Truth (1985)    
32. The Return (1997) 日本未訳


《関連リンク》
MGFC宇宙友愛協会
NOBのほぅむぺぇじよりデュマレストサーガの部屋

PLACE LIKE HOMEよりDUMAREST SAGA


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