太宰治
●「人間失格・桜桃」(角川文庫)
人間失格/竹青/苦悩の年鑑/トカトントン/ヴィヨンの妻/桜桃 以上6編収録
同一タイトルのドラマを作ろうとしたら、遺族からクレームが入り、「人間・失格」と点をつけるコトで折り合いがついたエピソードもある太宰です。遺族恐いなオイ。そんなワケで、すっげービクつきながら感想書かきゃなりません。悪いコトを書かなければ済むのですが、それは無理な相談です。
収録作6編の中でメインと言えるのはもちろん「人間失格」です。そしてこの「人間失格」と同一の内容/テーマを扱ってると思えたのが「竹青」。
太宰と滝本龍彦は作品の内容として横並びのポジションに思えます。滝本の評価がそんなに高いのかと思われそうですが、むしろ逆で、僕の中で太宰の評価が低いだけです。今の世の中に生まれていたら太宰はただの引きこもりになってたように思えます。
社会にとけ込めない落伍者(主人公)の半生を語っているんですが、何となく、標準以下という自虐よりも、『自分は標準以上なので誰もついて来れない/理解者がいない』と遠回しで言ってそうないやらしさを感じました。これは社会不適合者のバイブルになってそうですね。バイブルというか、悪用というか、自己防衛の道具というか。しかも、この作品には結局落伍者の生き方に対する答えがない。そこもまた「NHKへようこそ」レベル。
同一テーマの「竹青」では、社会不適合に対して『俗世間を愛せよ』という答えが出ています。そこが「人間失格」よりも優れてると感じる点です。「竹青」は手軽に「罪と罰」のエッセンスを理解できるような内容に思えました。近い時期に両作を読んだので僕が勝手に共通性を感じただけかもしれませんが。
たしか「人間失格」が太宰の最後の作品です。なので、どうして「竹青」で答えが出ていたのにわざわざ「人間失格」を執筆したのか分かりません。引きこもり特有の『同じ場所グルグル状態』に陥り、せっかく出ていた答えを放棄してしまったのでしょうか? もったいないです。
(20030506)
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