泡坂妻夫


●「喜劇悲奇劇」(角川文庫)

奇術、猛獣使い、アクロバット、危険術と、バラエティショウを一杯につめこんだショウボート。港々を回航しながら興業をうっていこうという趣向だ。ところが初日を明後日に控えて殺人事件がおこったのだ。しかも連続殺人が......。そのうえ被害者には奇妙な共通点があった。回文の名前をもつ---つまり上から読んでも下から読んでも同じ名前になる人物が、次々と殺されていったのだ......。

 トリックの一つが微妙。これをありにしていいものやら微妙。ホームズ作品で(ヘビ使いの存在を理由に)音でヘビを操るものがあって、でもヘビは実際にはヘビ使いに襲いかかろうとユラユラしてる動作が笛の音で踊ってるかのように見えるだけなんてツッコミを聞いたコトがあるんですが、この作品にもそれに近い『それでイイのか』的感想を持ったトリックがありました。何て言うか......「中国人だから」という理由になってないオチだったような気分。

 作品全体に鏤められた回文ネタが大変そうです。章タイトルも「豪雨後」「期待を抱き」と回文で統一。不自然なものもありますが。

 それよりも、小説家以外に奇術師でもある作者ならではの、作中で幾つか述べてるマジックネタが楽しかったです。奇術師(かつストーリーの核とは外れたお遊びネタ)なので答えは割ってないんですが、それらの中に今でもテレビ特番なんかで『超能力を暴く!』としてネタが解体されてるものがあったのが印象深いです。この「喜劇悲奇劇」、奥付けみたら昭和60年の発行。騙される人間はいつまで経ってもいなくならないんですな。阿部寛はドラマやってもう超能力信じないと言ったらしいが。

(20021101)

 


「亜愛一郎の狼狽」(創元推理文庫)

DL2号機事件/右腕山上空/曲った部屋/掌上の黄金仮面/G線上の鼬/掘出された童話/ホロボの神/黒い霧 以上8編収録

「亜愛一郎の転倒」(創元推理文庫)

藁の猫/砂蛾家の消失/珠洲子の装い/意外な遺骸/ねじれた帽子/争う四巨頭/三郎町路上/病人に刃物 以上8編収録

「亜愛一郎の逃亡」(創元推理文庫)

赤島砂上/球形の楽園/歯痛の思い出/双頭の蛸/飯鉢山山腹/赤の讃歌/火事酒屋/亜愛一郎の逃亡 以上8編収録

 創元推理文庫「亜愛一郎」シリーズです。全体的にコミカルな登場人物設定になっているので、ミステリのお約束的な非リアリズム(例えば、変装が通用するなど)も許せる世界観になっています。変装ネタが実際あったかどうか覚えていませんが。

 とりわけ面白キャラになってるのが探偵役の亜愛一郎。ギリシヤ彫刻のような顔立ちで非常に二枚目であるのに、奇声をあげたり白目を向いたりバタバタした動きを見せるという、何だか絵が浮かばないタイプ。サンダーバード系の人形劇みたいなのをイメージすればイイのかなあ。男前の人形が妙に手足をバタつかせてる、あんな感じで。

 3冊トータルで24編、暗号あり密室あり消失ありでレパートリーに富んだ内容です。一番印象に残ってるのが「双頭の蛸」。構造部分で奇抜なコトやってるなあと思いました。

 「三角形の顔をした洋装の小柄な老婦人」の存在に再読して初めて気付きました。お遊び部分とは言え、何で初読時に見逃していたのか不思議なほど面白い部分です。

 ちなみに「亜愛一郎の転倒」の田中芳樹の解説、版によってはシリーズに関わるネタバレしてるみたいなので、3冊目を読み終えてから読んだほうがいいです。僕のは5版ですが、ネタバレ部分はカットされていました。

 「亜愛一郎の逃亡」の我孫子の解説で出て来た手品の解答誰か教えて下さい。「切り取られ後新聞紙を数パターン用意しておいて、あちこちのポケットに隠しておく」、かなと思うんですが。

(20030129)


活字中毒記へ

トップへ


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送