安野光雅
●「空想犯」(講談社+α文庫)
安野光雅、何者か全く知らなかったんですが、「着眼力、嘘力、発想力が急増!! 人生が愉快になる」という帯に惹かれて購入。特に嘘力。
寺山修司みたいっすね。そんな感じの文章と言えば伝わるでしょうか。なんとなくすっとぼけていて、どうでもいいようなネタから始まり妙な方向に話が進む、そんなとりとめのないエッセイです。
「遠近法の錯覚」がとりわけ残りましたね。トポロジー(位相幾何学)についての説明があり、「位置を問題にし、距離は無視」「順序を問題にし、時間は無視」、これを身の回りの分かりやすい事柄に置き換えると、遊びや風刺の視点として楽しい。
「成田で香港に行く人を見送って、自分が家に着いた頃、相手はとっくに香港に着いている」
「学校群の制度や行政区画で、家の目の前にある学校へ入学できない」
んで、恐らく実例と思われるんですが、イギリスのファルマスを出航し、単独無寄港世界一周を達成したロビン・ノックス・ジョンソンの話。世界一周をいざ終えんと、ファルマスに帰ってきて感慨に耽っていた時、税関員にどこから来たのかと質問されての答え、
「ファルマスからだ」
これちょっとカッコイイです。
あとがきに記されている「嘘」に対する作者の以下の思い、非常に共感出来ますね。
>詐欺にかかる時は、よーく考えてみると、自分に都合よく解釈しているコトが多い。その為に嘘が見破れないのである。どうも育ちのいい人は「疑う力」が弱い。
疑う力は、合理的に考えを進めている点で、(感情的な色の強い)いわゆる猜疑心とは違う。
空想は生きていく上で、大切な考え方だと思う。
ここにとっても共感。本当にそう思います。まあ、とは言っても、
刑務所に服役中という嘘設定の年賀状を知人にばらまいたら本気にした人続出、今尚一部で前科者扱いされてる作者はやり過ぎですが。
(20010726thu)
●「起笑転結」(文春文庫)
ものごとにはすべて始めと終りがある。では、始めと終りの間には何がある? それはトリックとレトリックであると看破する著者が奇想天外な手法で、日常的な平凡な話を世にも不思議な話に変えてみせる“話の発想工房”。話の並べかた、組み合わせかたしだいで、「事実は小説より奇なり」となるかどうかを見よ!
テーマ性もよく分からず何を書いてるのかすら不明なネタ集でした。ていうかテーマは特になく、着地に意外性を狙った文章、という感じなんですが、ネタを外す外さない以前にどこで着地したのかが不明なものが多かったです。
「歌用辞典」が面白かったです。面影と書いて「かお」、破片と書いて「かけら」と読ますように、歌詞の読ませ方を辞典にしてるのですが、今日日のネタで改めて作って見るのも面白いかも。ちなみに山口貴由は香車と書いて「まっしぐら」と読ませます。
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