赤江瀑


 作品を称する言葉/キーワードとして、『耽美/情念/夢幻/エロス/妖美/蠱惑/甘美/妖艶』というものがよく出てくる赤江瀑。結構読んでるんですが、実は何冊読んでもピンと来ない作家だったりします。が、殆ど絶版のその作品を捜し求め古本屋を足繁く巡るファンがいたりと、カルトな人気を持っている作家です。

 恐らく僕的にピンと来ないってのは、何か自分に欠落してる部分が赤江作品の魅力を知るに必要欠くべからざるものなんじゃないかと思います。嗅覚の鈍重な人間が、匂いに満ちた世界を知るコトは非常に難しい、きっとそんな感じです。

 これらの作品はどういう感じで読まれてるんでしょうかね。作品出版時期はちょっと昔なんですが、勝手な推測をすると、その当時思春期を過ごした女性陣が昨今に於ける「ボーイズラブ」モノを読む感覚で好んで読んでいたのではないのかと。実際は男同士の即物的な交わりが描かれてるコトは少ないんですが、何と言うか男の肉体美が表現されるコトが多々あります。

 「ボーイズラブ」を読む感覚で今日日のマダムが若かりし頃ハマったのかと推測してみましたが、角川文庫版のカバー絵を描いてるのが村上昂。「ボーイズラブ」モノの表紙はたいてい女の子と見紛うような可愛い男の子とちょっといじわるそうなお兄様タイプの組み合わせがアニメやコミックタッチで描かれています。一方この村上昂の絵はそれらとは露骨に画風が異なり、男はムキムキで、髪も角刈り多め、更には青々としたヒゲの剃り跡も描かれています。

「さぶ」の表紙っぽいのを思い浮かべて下さい。

何か耽美というよりもホモくさい気もします。そういやホモサイトでダントツの人気を誇っていたのが「スーパーマン」だったのを思い出しました。「アンドロメダ瞬」ってのにも票が入っていました。こちらは「ボーイズラブ」的な綺麗系嗜好を感じますが、スーパーマンが性的にタイプって男は単なる本物です。それよりもそんなホモサイトにアクセスしたコトがある自分が問題です。


●「オイディプスの刃」(角川文庫)

 第1回角川小説賞受賞作。

 当作品、何かのベスト日本ミステリ本にて「超絶クラス」扱いされていたものの、赤江作品はミステリ的な「殺人(謎)→捜査」という枠組みのストーリー展開を見せても別にミステリとして着地(解明)するとは限らない、むしろその事件を引き金に「背徳」へと向かう人間の心理が描かれる、その辺が赤江文学の「骨」だと感じます。もう、『○○小説』という括りは不可能。ただ、『小説』です。

●「ニジンスキーの手」(角川文庫)

獣林寺妖変/ニジンスキーの手/禽獣の門/殺し蜜狂い蜜 以上4編収録

 「殺し蜜狂い蜜」にとんでもない描写あり。自分の男性に蜜を塗り毒針を持った蜂を這い回らせ狂気寸前の快楽を堪能するという。これ、絵にしたいんですが、このサーバじゃアップ出来ません。

●「マルゴォの杯」(角川文庫)

マルゴォの杯/千夜恋草/緋の葛を額につけ/刺青の海で夏/春恨紀 以上5編収録

 赤江作品は解説を読んでもワケが分からないのですが、この岡田嘉夫の解説に辛うじて自分の理解を助ける一節を発見しました。

>氏の作品は推理物でなく、端的に言うと闇物である。

 自分が赤江作品をどうにも理解不可能たらしめてる部分がこの辺なのかも。ミステリばかり読んでるから、ラストで暗闇に突き落とされるコトに呆然とする。闇の「恐怖」ではなく、ホント「呆然」です。何をされたか分からない、自失呆然感覚。

●「美神たちの黄泉」(角川文庫)

美神たちの黄泉/万葉の瓶/黒潮の魔軍/草薙剣は沈んだ/カツオノエボシ獄 以上5編収録

 「万葉の瓶」の「カメ」は違う漢字なんですが、色々と変換を試しても出てきません。タイトルの字面を見てるだけでも酔えるのが赤江作品。

 妖艶なものの魅力に取り憑かれていく人間を描いた作品、ってのも赤江小説の骨格ですね。

●「金環食の影飾り」(角川文庫)

 対象として扱う世界が特殊なのもまた赤江作品の特徴。とりわけ日本的なもの、『和』への造詣が深く、その世界を表現する咀嚼力の高さが素敵なんですが、この作品では「歌舞伎」が扱われています。

●「風葬歌の調べ」(角川文庫)

 自分的に「オイディプスの刃」と同じ匂いを感じた作品です。ラストシーンが重なるのもありますが、全体的な物語の運びにその匂いを受けました。

●「花酔い」(角川文庫)

 主な登場人物は4人。実は赤江作品としてはこの4人ってのは多い方かも知れません。遺棄死体や恐喝などといった事件を挿みながらも、その辺に対する物語のアプローチは薄く、あくまでも主要4人のやりとりが中心にストーリーは運ばれます。

●「夜叉の舌」(角川ホラー文庫)

草薙剣は沈んだ/月曜日の朝やってくる/悪魔恋祓い/夜叉の舌/春の寵児/鳥を見た人/夜な夜なの川/影の訪れ/池/迦陵頻伽よ 以上10編収録

 自選恐怖短編集で10作が収録されています。現代モノが多めですが、一応『舞台のパッと見』がバラエティに富んだ選出になってる様子かな。「月曜日の朝やってくる」なんて異色な作者としても異色です。つまり、裏の裏は表的に、オーソドックスな内容かも。

●「鬼恋童」(講談社文庫)

鬼恋童/阿修羅花伝/闇絵黒髪/炎帝よ叫べ/寝室のアダム 以上4編収録

女の性器を持った者だけがカレに感じることが出来る

などというとんでもない表現がズバッと出てくる「炎帝よ叫べ」にドキドキ。踏み込んだら戻れない境界線の上をふらふら漂う危うさに満ちた短編集です。

●「舞え舞え断崖」(講談社文庫)

女形の橋/水鏡の宮/耀い川/舞え舞え断崖/悪戯みち/柩の都/黒馬の翼に乗りて 以上7編収録

 「黒馬の翼に乗りて」辺りはミステリ的な着地で分かりやすいんですが、きっとたまたまミステリ的に幕を閉じているだけです。

●「妖精たちの回廊」(中公文庫)

 馴染みの薄い世界が舞台になるコトの多い赤江作品の中でも、これは一層馴染みのない世界です。鯉の養殖。模様のかけ合わせやサイズという、芸術としての鯉です。一つの芸術を突き詰めていく人間の情念(端から見たら狂気)が伝わる作品。

 将棋や碁の達人同士の勝負にも通じる、凄さを理解できるのはほんの一握りの人間のみという領域を大衆へ向けた小説として表現してる感じで、鋭敏化された芸術世界が描かれています。

●「蝶の骨」(徳間文庫)

 復讐のシナリオからスタートするこの物語も、サスペンスドラマ的な着地を見せないのが赤江です。

●「正倉院の矢」(文春文庫)

正倉院の矢/シーボルトの洋燈/蜥蜴殺しのヴィナス/京の毒・陶の変/堕天使の羽の戦ぎ 以上5編収録

 快楽殺人者と話をしてると相手の話術に飲み込まれていくので気を付けねばならないという戒めを、赤江小説を読む際にも肝に命じましょう。

●「春喪祭」(徳間文庫)

夜の藤十郎/春喪祭/宦官の首飾り/文久三年五月の手紙/百幻船/七夜の火 以上6編収録

 ラストの2編が海に密接した土着文化を扱っているので、その印象か潮の匂いが漂ってきます、この本。「文久三年五月の手紙」の突き放しっぷり/居心地の悪さが素敵です。

(20020311)


「光堂」(徳間文庫)

美酒の満月/逢魔が時の犀/曄曄庭の幻術/青毛/雛の夜あらし/夜市/光堂/艶かしい坂/青き鬼恋うる山 以上9編収録

 赤江瀑作品は日本的で美麗なるタイトルが素敵極めていて、字ヅラ眺めてるだけでも陶酔できるのですが、これ打ち込むのえらく大変です。漢字ないし。ヨウヨウテイのヨウの字、ホントは「火+華」なんですが、見つかりませんでした。他のサイト回ってコピペしようかとも思ったんですが、他でもあるのかどうか保証がないので素直に諦めました。黙ってれば誰も気付かなかったコトいま書いた。

 以上で、この作品の感想を終わらせて頂きます。

(20021114)


「八雲が殺した」(文春文庫)

八雲が殺した/葡萄果の藍暴き昼/象の夜/破魔弓と黒帝/ジュラ紀の波/艶刀忌/春撃ちて/フロリダの鰭 以上8編収録

 ミステリに動機は不要、正直それを謎解きの照準に据えたり、パズルのピースとして使うのは非常に難しい気がします。ホワイダニット(何故殺したのか)という言葉/分岐ジャンル自体がナンセンスにすら感じます。

 メンタル部分から謎にアプローチするのは、どうしても推測の域を出ない、そんな弱味があります。自分の経験則からいって、相手の心理/意図/悪意/敵意が確実にトレース出来るというコトは実生活において往々にしてありますが、相手がしらばっくれたらそこでお終いです。

 んで、この「八雲が殺した」に収録されてる作品には、この『動機』に激しくアプローチされてるものが多かったです。赤江瀑作品はミステリとして読んでないのですが、『動機に照準を合わせたミステリを書いた場合、これらのような作品になるんじゃないだろうか?』と、途中でふと思い立ちました。

 謎に対して、一つの答えらしきものに辿り着くのですが、それはあくまでも推測のまま、正解という保証のないトコロで物語は閉じます。何かしら釈然としないものを残しつつ、それでいて鮮やかです。

(20021114)


「巨門星」(文春文庫)

 サブタイトルが『小説菅原道真青春譜』となっていて、赤江作品で青春という明るさ前面な言葉に妙な違和感を感じます。

 時代小説、というワケで「これ作者が誰か知らないで読んだら赤江瀑と思わないんじゃないだろうか」というノリもちょっと感じたのですが、途中から『香』が物語に絡んできた辺りでああやっぱ赤江だなという印象。

 史実に詳しくない自分は序盤で生まれる二人の子供の内どちらが道真なのかまるで分かりませんでした。ミステリ的な解決もあるのですが、「入れ替わり」がアリの世界観だと事前に説明がないので純然たるミステリではない感じです。

(20030124)


「アニマルの謝肉祭」(文春文庫)

高名なヘア・デザイナー・楯林驍。27歳。ライバルが美容室の開店前日に不審火で焼死。彼も京都で命をねらわれ、やがて、博多、パリで殺人事件が......。マザー・グースの七曜歌に托された出生の秘密とは何か? 祇園祭月鉾の破風拝みの“烏”に秘められた謎とは?

 赤江作品は短編でもじっとりとくる、なのでえらく長いコレ、かなり骨だろうと構えていたのですが意外とスイスイ読めた作品でした。

 カリスマ美容師という微妙に古くなったネタを扱っていますが、これはその言葉が流行る相当以前に書かれた作品です。美容師の派閥的なものも出てきますが特にイヤな気持ちにもならず。集団があれば派閥は出来るものですな。

 傍若無人なまでの楯林驍を獅子の振る舞いに重ねてのタイトル、そんな意味もあるんでしょうがラストにて明かされる更なる『獅子』という生き方。獅子のように生きていたのみならず、獅子として運命付けられていた幕引きにも思えます。

(20030124)


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