我孫子武丸


小笠原海溝よりも深く、大平洋よりも広く、受験戦争よりも激しく、 アーノルド・シュワルツェネッガーよりも強く、 そしてダイヤモンドよりも永遠に、あなたを愛しています。

「人形は遠足で推理する(講談社文庫)」より

 本を読まない人にも「かまいたちの夜」のシナリオ書いた人という紹介をすれば多少は通るのがこの我孫子武丸。

 僕の我孫子武丸に対する印象は、何だかピリピリしてる人。メフィストで連載されていた4コマ漫画でそんな印象を植え込まれたのかと言えば別にそうでもなく、では何故かと考えるに著作以外のエッセイなどの、肉声に近い発言からそれを感じさせます。

 それが極まってるのは、「99本格ミステリ・ベスト10(東京創元社)」での『祝!角川文庫名作復刊記念・解説ベスト10』ですかね。今まで自作を酷評されていたのがよほど業腹だったのか、解説にランクを付けるという報復行為に及んでいます。もうこの『解説ベスト10』なんて企画自体、

茶木則雄や関口苑生を叩きたいがゆえの発想だと思われます。

この辺と新本格勢、仲悪いからね。そして確かに茶木などは私情を挟む書評をする人なので(作品と作家は別物と割り切れていない)、信用するに値しないんですが。

 作風は、本格のコードを重視する人が多いので自分はやらなくてもイイとの判断から色々なコトに手を伸ばしています。それゆえ油断のならないトコロがあり、結構期待しながら本を読みはじめることが出来る作家です。なので、あまり怒りにエネルギーを使わないで執筆して欲しいです。


●「8の殺人」(講談社文庫)

 デビュー作、速水三兄弟シリーズ開幕。何だかラストミエミエとかの書評も結構ありますが、全然分からなかったしホントにびっくりしました。今にして思えば犯人の動機が無茶苦茶だとも思いますが、その無茶苦茶ぶりは新本格の思想をズラして表明してるかにも思えます。

 新本格陣のデビュー作ではかなり印象のイイ方です。カーに興味を持ったのもこの辺の影響です。

●「0の殺人」(講談社文庫)

 余分なピースのない、明確なワンアイデアなのでバレやすいオチかも知れませんが、これも分かりませんでした。

●「メビウスの殺人」(講談社文庫)

 我孫子は変格嗜好がありそうで作品を清涼剤的に楽しめます。この作品に関しては執筆中「殺戮に至る病」のプロットが浮かんだのでよしとすると、まるで駄作みたいに作者自身語っていますが、これはこれでラストにきちんとオチがあります。「速水三兄弟シリーズ」好きなんだけどなあ。もう長編書かないのかなあ。

●「人形はこたつで推理する」「人形は遠足で推理する」「人形は眠れない」(講談社文庫)

 腹話術師/朝永嘉夫とその操る人形/鞠小路鞠夫、幼稚園に勤める妹尾睦月をメインに据えたユーモアミステリシリーズ。探偵役は朝永嘉夫、ではなく人形の鞠小路鞠夫。多重人格という設定ながらも内容はキャラ小説です。

 「速水三兄弟シリーズ」がユーモアな雰囲気を漂わせながらもミステリとしてのオチに重点が置かれているのに対して、こちらはオチよりももうキャラが強調されてる印象が強いです。それなりの人気を得てるし、とにかくキャラ小説は強いって感じです。

●「探偵映画」(講談社文庫)

 これは色々と楽しい要素が入ってる作品です。作中で映画撮影をしていて、脚本を書いていた大柳が失踪。その映画の犯人は大柳しか知らなく、犯人不明のまま撮影続行。出演者それぞれが「犯人=目立つ役との思いから自分の役こそが犯人だと力説。今まで撮影された話から伏線を勝手気侭に繋ぎ合わせ力説。他の出演者は自分が犯人役になりたいものだから勿論その推理の穴を必死で探す。この辺がアシモフの「黒後家蜘蛛の会」を裏返した感じで楽しい。

 それらの推理を悉く覆すラストも素敵。もっと話題になって欲しい作品ではありますが、我孫子と言えば「殺戮に至る病」の一発カタストロフィが強烈だったのかなあ。チマチマしていながら最後にひっくり返してくれる良作です。

●「殺戮に至る病」(講談社文庫)

こんなもの読まされたら刺身が食えなくなります。

代表作になっていますね。事実面白いし。内容が内容なのであまり言及できないのが辛いトコロですが、書いても差し支えない範囲で書くなら、犯人の名は蒲生稔。

●「ディプロトドンティア・マクロプス」(講談社ノベルス)

 やろうとしたのはバカハードボイルドだと思うんですが、「殺戮に至る病」の次にこんなの持ってこられると面喰らってしまいます。手札(作風)の多さを伝えるにはイイんですが、その札の出す順番がです。

 読む順番が違ってればもっと違う感想が出てきたと思いますが。別の意味でびっくりしました。 

●「たけまる文庫 怪の巻」(集英社文庫)

 落語を着想とした小ネタ集、といった感じでしょうか。ホラーなんですけどね。

(20020214)

 


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