冨樫義博


●「幽遊白書」16巻

 仙水忍と浦飯幽助のサシ勝負開始から幽助の死による戦闘終了、魔界への扉が開通、そして幽助復活までを収録。

 手元にある「幽遊白書」は3冊で、そのうちの1冊です。この巻は、作者冨樫義博が壊れはじめた記念すべき巻です。表紙折り返しの作者の言葉で「漫画家用語事典シリーズ」ってのが開始されてるんですが、これがA・ビアス「悪魔の辞典」みたいな皮肉っぷりで素敵。

>影響→誰も知らない人から受けること。そうすればオリジナルだと思われる。

 本編は、とにかく前半の仙水と幽助のサシバトル部分が秀逸。「仙水が実は多重人格」「今まで主人格たる『忍』は一度も出てきていなかった」など毎話、どこかしらハッとさせられる/驚かしてくれるモノがあります。特に自分的にツボだったのは聖光気を纏った仙水がバカ笑いする絵。もうツボ。真顔の絵から次のコマでいきなりバカ笑いしてるの最高です。幽遊キャラで一番好きなの仙水ですね。

 後半の幽助復活「魔族大隔世」ですか、これってきっと半村良「妖星伝」の外道皇帝がインスパイア元なんだろうなあ。えーと、

>影響→誰も知らない人から受けること。そうすればオリジナルだと思われる。


●「幽遊白書」18巻

 魔界突入。幽助/蔵馬/飛影それぞれが魔界3巨頭の元に付いてからの物語。

 この巻では「それぞれの一年 飛影後編」「それぞれの一年 蔵馬前編」、ここが濃い。週刊連載とは思えないストーリー密度です。

 「それぞれの一年 飛影後編」では特にラスト6ページ飛影の記憶を辿るムクロの語りが異様にカッコイイ。呪符を取ったムクロの正体のデザインもイイ。最後の台詞がキます。ズンズンキます。

「お前はまだ死に方を求める程強くない」

 「それぞれの一年 蔵馬前編」化かし合いが極まっています。「心拍数が正常に戻ったな さすがだ」、ここに震えました。何故蔵馬の心拍数が正常に戻ったのか。それは、(黄泉は全て見透かしていた/しかし自分を殺すならいつでも殺せるのにそうしない/取り敢えず自分は安全と見ていい)、自分が過去に黄泉に向けた暗殺者の成れの果てを見ながら蔵馬は僅かな時間の内にそう考えたものと思われます。絶体絶命な状況下でのその判断。それに対して「さすがだ」と黄泉の台詞。

 と、三大勢力による知謀知略に富んだシミュレーション的な派閥争いが期待できたこの魔界編も、この巻の後半で、一気にトーナメント化します。ここまでの仕込みが素晴らしかっただけにもったいないの一言です。「来訪者たち」のラストの黄泉の台詞、「やはりオレもバカのままだ」、ここで魔界編は終わったと見ていい感じがします。この後も実際にトーナメントは開始されますが、この台詞で全て解決してしましました。

 是が非でも掲載させる編集部の方針が話を面白く転がす可能性を消してしまった感じ。これに懲りた為、「ハンター×ハンター」では話に行き詰まったら露骨に休載するワガママが通るようになったのでしょう。


●「幽遊白書」19巻

魔界トーナメント終了から、連載終了まで。

 この巻はもう無理矢理連載を引き延ばしてるだけの小ネタ集なんですが、「コエンマが父親を告発」から始まる、今までこの漫画で敷かれていた善悪の反転が目立ってます。敵味方の明確さが要求されるであろう少年誌では特例だと思います。価値観の反転を描いたのはデビルマン辺りが有名、でしょうかね。

 んで、次回作「レベルE」ではこれより更に一歩進めた、種族事による様々な文化/常識を取り込んだ「価値観の無効化が描かれることになります。


●「レベルE」1巻

 月1掲載での連載で、絵の質は勿論のこと、ストーリーの質が半端でない。納得のいく作品を作りたいが故の月1連載、と思われます。まあ、絵に関しては連載ラストではグダグダになるんですが、とにかくストーリーですね。コミックス僅か3巻分ながらも信じられないまでのアイデアが投入されている話の作り込みには脱帽です。

 アイデアの源泉は「幽遊白書」からの流れを汲んでいて、「価値観の相違」、これが大前提になります。「幽遊白書」では結構魔物(特に雷禅)の常識と人間の常識が噛み合わない面がテーマにも繋がっていた感じがしますが、今作では地球に飛来する(もしくは既にしている)宇宙人各種族の価値観/常識が多種多様。「価値観の相違」の先、「価値観の無効化」に突入。テーマとして描かれるというよりも、この漫画の世界観での前提条件です。人間ならではの倫理性をも度外視している為、描きようによっては非常にシビアな作品になるんですが、異星人のコミカルな価値観/常識がオチになったりするので、その辺は楽しく読める作品です。

○No.001〜N0.003

 連載最初のエピソードにつき、作品の方向性が見えない見えない。ひたすらシリアスに向かうように思わせて、ラストで騙してくれます。冨樫義博、騙すの好きですからね。騙すのに「何故騙すのか」という、ストーリーに絡んだ説得力のある理由付けを考えるのは辛いと思うんですが、このレベルEでは主要登場人物の一人/バカ王子の性格を『人を騙すのが好き』と設定するコトであっさり解決。

 登場人物や地名などのネーミング、筒井雪隆/江戸川蘭蔵/湖南研究所/ディスクン星人/エラル星人/ドグラ星、この辺から冨樫の読書嗜好が伺える感じがします。

○No.004〜N0.005

 このエピソードはシリアスですね。本能と心が相反する悲劇。内容的には「幽遊白書」の『人を食べる魔族』というネタを、改めてしっかり描いてみたという感じ。ジ・エンドで終わったと思ってラスト2ページを読み忘れないように気を付けて下さい。

 今回も坂本庵悟や夢野九四郎といった何だか嬉しいネーミングあり。


●「レベルE」2巻

○No.006〜N0.009

 小学生5名を巻き込んでのRPG編。改めてこの「レベルE」を読み直して感じたんですが、話/ネタの密度が半端じゃないですね。説明が薄くて一読して分かりにくい部分もある気がしますが、そこがまたイイ。読み手に行間を補完させる感じで。読み捨ての雑誌ではなく、コミックスとして残して置くに充分な内容の作品です。

 お姫様登場シーンなんか上手いです。清水(ゴン似)の好きな女の子/糸井理奈をお姫様として出すと思わせる伏線を色々と張っておいて(「気になるのはうちのクラスの糸井理奈も欠席しててまだ連絡ないんですよ(P91)/「ん...?この声はまさか...(P99)」)女装したバカ王子登場。

 小学生5人が担任が宇宙人だと知ってもその事実をあっさり受け入れるのもこの作品らしいです。

 絶体絶命状態へと向いながら一体どうなるのか、そこでのラストの纏め方も上手い。広げに広げた風呂敷のたたみ方が素敵です。

○No.010

 マクバク族の女王サキが地球へムコ探しに来訪。マクバク族女王との交配後、交配対象のみならずその星のオス全ての生殖能力が無くなる(交配中ウイルスがオスへと入り込み、覚醒して他のオスにまで空気感染する)、つまりその星のその生物は子が生まれなくなるので絶滅するコトになる。そこでクラフト達3名は、何とか王女に地球人の中にムコを見い出すコトの無いようあれこれ策を弄する話。

 例によって宇宙人種族(今回はマクバク族)の設定が絶妙。このNo.010のラストではクラフト達の努力のかいも無く、サキ王女地球人に一目惚れ。しかしその相手が女だったというオチで終了。ここで終わってもある意味オチが付いてるんですが、続きは3巻へ。


●「レベルE」3巻

○No.011

 マクバクの女王編後半。女王の一目惚れの相手が「女」だったので安心しきってるクラフト達をしり目に女王、惚れた相手を「女」から「男」に変える遺伝子操作手術を決行。

 この辺で出てくる科学的な知識はとにかく圧倒されますね。ワケが分からないのはともかく。「幽遊白書」終了後、冨樫義博自分のやりたいコト思いっ切りやって、その中で色んな本を読み漁ったんだと思います。いいなあ。

 最後はバカ王子の力を借りて何とか地球人絶滅の危機を回避。物凄いハッピーっぽい女王と未来のムコの姿が描かれているラストシーンですが、後々バカ王子の仕掛けに気付いた時、マクバク女王悔しがるでしょうね。悔しがっても、どうにも出来ない。そこがバカ王子の悪魔っぷり。

○No.012〜No.013

 『集中力』によってレギュラー誰かの潜在意識の中に筒井雪隆たち如月高校野球部員が閉じ込められる話。犯人は9名のうち一体誰なのか? それを探し当てる「そして誰もいなくなった」的な展開になるのかと思わせながら、ラストでも犯人はビシッと明確に明かされないのが冨樫らしい。そして、犯人は実は消去法で割り出せるようになってるのも素敵です。

○No.014

 カラーレンジャー編。このエピソードもきっちり決まってます。僅かなページに凝縮された緻密なストーリー構成が決まってます。

○No.015

 バカ王子の婚約者登場。

 この「レベルE」で最高傑作とも言っていいであろうエピソードです。35ページでこれほどの精巧な話を作り上げる冨樫義博に脱帽です。答えを知ってから改めて読み直すと、途中途中での台詞も全く意味合いが裏返る。作者の試みの高さがスパークしています。涙が出るほど感動です。

○No.016

 「価値観の無効化」が描かれたこの「レベルE」ですが、最後のエピソードではその「無効化」が作品世界内にも浸透したトコロで終了。

 と言うワケでこの「レベルE」、冨樫義博の先鋭した部分の結晶ともいってイイ作品です。

 現在連載されている「ハンター×ハンター」にもこの作品で描かれた作者らしさは(ちょっと薄めですが)継承されていて、更にはキャラクターの魅力も「レベルE」以上のものになっているので、幾ら休んでもいいので作者がやりたい話を作っていって欲しい。「作者がやりたい話=読者が読みたい話」になってるのが冨樫義博ですから。


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