手塚治虫


「火の鳥」(角川書店)

 手塚治虫は何だかもう超人としか言い様がないです。万能の天才に思えます。何をやってもその道の第一人者になれた人だと思うし、そんな人が漫画家になってくれてありがたいです。漫画の神様と呼ばれてますが、「漫画の」という部分は不要に感じます。

 「手塚治虫の世界」(朝日ジャーナル増刊/1989年4月刊行)に、亡くなる1年ほど前に行なわれた講演の言葉が収録されてるのですが、これによると手塚治虫は漫画を描く際「テーマ性」を大切にしてるコトが述べられています。確かに主題の含まれてる作品を描いてますが、正直ちょっと意外でした。エンターテインメントとしての面白さのみに徹してると感じる部分も持っていたので。

 伝えたい主題を持ちながら、それを前面に出し過ぎるコトなく、エンターテインメント作品に仕上げてるというトコロでしょうか。

 あとその講演に、付かず離れずでモジモジしてロクな展開を見せないラブコメというジャンルにムカついていそうな発言もあって意外な一面を知りました。神様と言っても盲目的に全ての漫画を好意的に見てるワケじゃないんだと。

 他に、漫画の絵は記号、という発言に手塚治虫のスタンスを感じます。漫画の絵は誰でも描ける、だから漫画の個性/差は絵以外の部分(主にストーリー)にある、という感じで。実際のコミックシーンとしては絵の部分での進化が取り分け激しいんですが。

 というワケで、ここまでの文章、別に「火の鳥」について触れていません。以下各編にミニコメント。

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○「黎明編」S4201-S4211 関連:ヤマト編/未来編

 昭和42年1月スタート。シリーズとしては1発目ですが、いきなり火の鳥ピンチになってたのが印象的。ヒミコ、火の鳥の血を飲む直前までいってます。

○「未来編」S4212-S4309 関連:黎明編/鳳凰編/復活編/望郷編

 これは「火の鳥」の中での位置付けとしてトータルプロローグともトータルエピローグともとれる作品です。フラクタルにテーマを描いてる当シリーズの中でも一番スケールが大きいです。

○「ヤマト編」S43-09-S4402 関連:黎明編/鳳凰編

 メタレベルのギャグが多くてちょっと驚きました。「王よ」「何だ長嶋」とか。弾け過ぎです。

○「宇宙編」S4403-S4407

 この作品で過去と未来の時系列が無効化されてますね。コマ割りが特殊で、手塚先生色んなコトを試しています。

○「鳳凰編」S4408-S4509 関連:黎明編/ヤマト編/未来編/乱世編

 主人公の起爆が怒りというのがイイ。劇場アニメにもなったし、シリーズ中では最もメジャーな作品かも。

○「復活編」S4510-S4609 関連:未来編/望郷編

 二つの話が一つに繋がるのは「太陽編」でも描かれていますが、こちらは転生抜きで時系列として直で繋がってます。

○「羽衣編」S4611

 ストーリー面では平均的な内容ですが、ステージを眺めてる演出という手法が素敵。シリーズだろうと手法を固定しないのが凄い。

○「望郷編」S4612-S4701/S5109-S5203 関連:復活編/未来編

 作中でも触れられていますが、これは「星の王子さま」がモチーフかも。珍しく連作形式で、今現在出版されてるものは途中が一部カットされてるみたいです。

○「乱世編」S4808/S5304-S5507 関連:鳳凰編

 二度と出演しないと思っていたキャラが序盤で出ます。この「乱世編」は歴史に絡めた中でもシリアス色が強くちょっと読むのに疲れました。

○「生命編」S5508-S5512

 クローンネタは結構最近でも使われてますが、この時点で手塚治虫はそれがもたらす問題をシミュレート済みです。

○「異形編」S5601-S5604 関連:太陽編

 シリーズ全体に描かれてる輪廻テーマですが、その循環ネタを個人に限定した話。珍しく女の裸が多め。

○「太陽編」S6101-S6302 関連:異形編

 カットバック形式で二つの物語が入れ替わりながら展開。二つの物語のメインテーマは同じなのですが、それが一つに収斂する様は圧巻です。シリーズ中一番切ないです。


「どろろ<全3巻>」(秋田文庫)

 解説にも書いてあるコトなんですが、この作品は数少ない純正妖怪漫画です。妖怪が妖怪の生きていたナマの時代にストレートに描かれている作品は意外と少ない。妖怪を扱ってる作品といって思いつくのは、京極夏彦「京極堂シリーズ」や水木しげる「ゲゲゲの鬼太郎」あたりですが、これらも舞台は昭和以降の現代です。

 この「どろろ」、そうした妖怪漫画の世界観/雰囲気が気に入ってて、手塚作品でもかなり好きなんですが、打ち切りなラストなのが悲しい。死去に伴う未完の作品は仕方ないとしても、打ち切りで本来のラストの構想が見えない作品ってのはちょっと悲しいです。

 四化入道というキャラクターは息子の手塚真の描いた絵をモチーフにしたそうですが、別の元ネタあるのかと思ってた。何か、鉄鼠っぽいし。


「海のトリトン<全3巻>」(秋田文庫)

 初出が新聞連載という想像もつかない作品。日刊ですよ、日刊。一日何ページぐらいだったのでしょうか。どういうサイクルで描いてたのかまるで見当が付きません。まるで岸辺露伴のように、下描きしないで直で描いてそうな気もしてくるのが手塚治虫の凄いトコロです。

 かなり縦横無尽な展開を見せて物語的にも上質です。たった3巻とは思えない程のうねりがあります(これに限らず手塚作品はどれも密度あり)。大枠をキープしつつ、時に意外性も出すという理想的なエンターテインメントです。


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