山口貴由


「覚悟のススメ」1巻

 この山口貴由もまた他者には出来ない我流の作品を描き続ける漫画家です。独特ですね。ていうか独特過ぎです。

 この巻では主人公である葉隠覚悟の登場/紹介が中心。強化外骨格「零」を纏い、零式防衛術という格闘術を体得している高校2年生。兄である葉隠散率いる戦術鬼の軍団と戦いを繰り広げる話です。「散」と書いて「はらら」と読みます。

 21世紀初頭、格にて崩壊した全世界の生態系と秩序、この辺の舞台設定はありがちですが、正直この作品に舞台設定はさほどの意味はありません。この作品、更には山口貴由作品全ての醍醐味は、台詞の妙技につきます。山口節とでも言うべき独特の言い回し。どこかしら時代掛かっていてる言葉の選択、天然な生真面目さが熱い。もう山口貴由にしか出来ないです。

○この巻の箴言

「当方に迎撃の用意あり」

「キサマの愛は侵略行為」

「われらのとるべき道は 理不尽に決起することではなく 理不尽に忍耐することである」

「われらのとるべき道は 理不尽に忍耐することではなく 理不尽に必勝することである」


「覚悟のススメ」2巻

 永吉に精神転位した散との闘い終了。そして覚悟がどうやって強化外骨格「零」を身に纏えるようになったかのエピソードが語られます。強化外骨格は覚悟の祖父/葉隠四郎が侵略戦争に於いて他国の捕虜の生体実験の果てに誕生した「意志を持つ鎧」。キーワードになるのは「血涙」。

 1巻から何故かいきなり敵対している兄/散もまた強化外骨格「霞」の着装を完了させていますが、如何なるやり取りの果てに「霞」と心を一つにしたのかは不明。敵対している理由もまだはっきりとは分かりません。

 ちょっとした日常エピソードである「第十六話 意志」の、覚悟の淡々とした発言がヒット。生真面目。

○この巻の箴言

「雑草などという草はない」

「覚悟とは苦痛を回避しようとする生物の本能さえ凌駕する魂のことである」


●「覚悟のススメ」3巻

 戦術鬼/毒魔愚郎との闘い。「ボクの個性をうばって満員電車にゆられるただの歯車にする気だな!」「大切な個性おさえつけるもの全部いらねー」など、少年漫画では得てして良い側で描かれる「個性」の大切さなんですが、この作品ではそれをワケも分からず言葉だけで繰り返す無能として敵で表現。偏差値の低いバンドマンがモチーフと思しき毒魔愚郎。真面目/堅実な生き方を真っ向から肯定する作者が心地よいです。

 次の戦術鬼/恵魅もまた、ボランティアに対する逆面からのアプローチを感じます。奉仕活動をしている人は自分が世の中の為に素晴らしいコトをしていると酔いしれている。それを極端化して表現。

 そしていよいよガラン城城主/散の軍団の幹部面々が登場。老中・影成/戦術鬼総支配・血髑郎/理系総支配・我理冷夫/衛兵隊長・ボルト/御典医・腑露舞/大老・知久/御側役・ライ

 永吉に転位したまま覚悟に破れ意識不明の散。幹部たちは散の残しておいた人類抹殺映像を観賞して人間完殺の決意を奮い立たせています。そしてまずはライが覚悟に挑戦を決意。

○この巻の箴言

「我が身すでに不退転!」

「行くがいい! 君は学徒である前に軍人だ!」

「負けること許されぬこの身なれど 勝つばかりとは限らぬ」


●「覚悟のススメ」4巻

 ライとの闘い決着から次なる刺客/血髑郎戦の前半までを収録。

 ライ戦での開幕のやり取りがイカス。一流同士の闘い。ライも相打ち(肉弾幸)を決め込みこの闘いに赴いている気構え。秘策瞬脱装甲弾にてライの呪縛から脱出、そして零式鉄球を四肢に集中しての超鋼化/特効形態からのトドメで何とか覚悟の勝利でした。

 ライが武士道バトルだった反動か、次の血髑郎戦は卑劣な罠が盛り沢山です。堀江罪子を人質に取った挙げ句、戦術鬼に調教/強化外骨格の原動力が霊魂であるコトを見切り、怨霊成仏光線を照射。覚悟、絶体絶命です。

○この巻の箴言

「ただ一点の曇りなき主君への忠義敵ながら見事!」「されど」「忠義より重きものがある!」「大義」

「あたしの王さまはあたしだもん」


「覚悟のススメ」5巻

 まず前半は血髑郎戦の続き。戦術鬼と化した罪子をどうにか元に戻したものの、今度は覚悟が戦術鬼化。まあ、元に戻りますけど。こうして見ると血髑郎はかなりイイトコ行ってたなあ。ここから強化外骨格「零」がしばらく動かなくなってしまいます。しばらくってのは、9巻まで。

 後半はいよいよ覚悟がガラン城到着。衛兵隊長ボルトとの闘い。バサバサと覚悟になぎ倒される400鬼の衛兵の後、ボルトが登場。ライ戦に続いて血で唇に紅を引く覚悟。それに返礼として鞘を捨てるボルトにしびれる。佐々木小次郎をカッコよくアレンジしています。

 ボルトはライと似たタイプのマッチョキャラですが、ライが零式鉄球を備えていたのに対してボルトの場合は強化外骨格。その名も「震」。宿る魂は前哨戦としてなぎ倒された衛兵達。「零」が成仏光線で沈黙してる為、零式防衛術で闘う覚悟ですが、やはり圧倒的に不利。

○この巻の箴言

「零式防衛術が腕で闘うものとでも思っているのか!」

「零式防衛術は相手を殺す技でなく 己を殺す技」


「覚悟のススメ」6巻

 ボルトの強化外骨格対策として零式鉄球を投げ、弾き返す前にその鉄球をボルトの体内で錨のように膨張鋭角化させる。これを受けたボルトがまた凄い。この技を散が喰らうコトのないよう更に多くの零式鉄球を受け止める。ボルト、内臓を吐き出し、覚悟の勝利かと思ったトコロで熱弾を覚悟が喰らい、橋から転落。まさかのボルト勝利。

 そのまま肉虫に飲み込まれた覚悟。合体巨大化する肉虫が目障りなので、我理冷夫が科学絶滅砲を発射。戦術鬼から復活したコトのある覚悟なのでこの肉虫からも復活するのではという危惧からそうしたのですが、もちろんその通り復活。連載時では覚悟の気迫に圧倒され銃で自決した我理冷夫ですが、単行本では描き直しで殴り殺されてます。そんな死に方は許せないってトコなのか。

 再びガラン城の門の前に立つ覚悟ですが、そこで見るのは絶命しながら門を守るボルト。その姿に礼を尽くし、死体相手ながらも必殺技の大義で突破。

 一方城内では遂に散が復活を見せます。かなりケロっと復活しました。

○この巻の箴言

「だが一流にはその先がある!」

「当方に人間の尊厳有り!」

「いかなる弾もいかなる者も通ることのできぬこの超門を 葉隠覚悟まかり通る!」

「人間に流れる血液に種類などない! 全て赤い血だ!」


●「覚悟のススメ」7巻

 前半は散の御典医・腑露舞が覚悟の前に立ちはだかります。腑露舞いきなり最終形態のファイヤーブロブに変化してのバトルスタート。この形態になったブロブは7分で燃え尽きる定め。もちろん覚悟は7分間を逃げ切るなんてマネはせずに真っ向から攻略。ファイヤーブロブ、2000度って。床とか溶け落ちないのか。

 後半では回想に突入。何故、散と覚悟は敵対し合ってるのか。葉隠家にて強化外骨格の着装を終えた二人が父/葉隠朧から訓練終了を言い渡されるトコロから回想は始まります。

 強化外骨格「霞」との邂逅が散にどう影響を与えたのか、散の身体が女に変化。『女ながらも男として育てられていた』ぐらいに考えていたので別の意味で意外でした。散と朧の戦いが始まりますが、強化外骨格瞬着シーンがカッコイイ。特撮ヒーローの変身ノリです。

○この巻の箴言

「何だか知らんがとにかくよし!」

「長生きだけを願うなら 人は獣と変わりなし ただひとすじの美しき道 駆け抜けるから人と言う 二つ無き身を惜しまずに 我が身は進む仁のため たった三文字の不退転 それが心の花である」

「葉隠一族(われら)を花にたとえるならば 人も通わぬ山奥に 咲いた紅葉の心意気!」


●「覚悟のススメ」8巻

 まずは回想の続き。強化外骨格「雹」を纏った父/朧を殺害した散。さらに覚悟も軽く一蹴しました。1巻の時の「覚悟VS散」の回想と微妙に異なるラストでした。この回想では、結局何故散がトチ狂ったのかが説明されずに終了です。

 回想が終わり、ガラン城/散の元に辿り着いた覚悟。登場した散はウェディングドレス姿。虚を衝かれ麻酔ガスを嗅がされ意識を失う覚悟。その隙に覚悟を自分の側に付けるべく、一線を越えようとする散ですが、覚悟の心に堀江罪子の存在を見つけ、思い止まりました。

 覚悟の思いを断ち切らせようと考えた散は、それゆえ罪子をガラン城に連れ込んで、銃弾を撃ち込みました。罪子の存在を感じ取った覚悟、霊虫形態となった老中・影成を軽くあしらい罪子の元に駆け付けますが、銃弾を撃ち込まれた罪子の姿を見てキレかけます。ていうかキレた。

○この巻の箴言

「牙を持たぬ人のため 地下百尺の捨石とならん この一念この年齢まで 言い聞かせたるこの身なれば 首の落ちたるとて死ぬ筈はなし!」

「滅殺せよ! 心を濁らせる哀憎怨怒!」


●「覚悟のススメ」9巻

 銃弾で胸を打ち抜かれていた罪子ですが、胸に潜ませていた位牌が盾となって生存が判明。更にここでいきなり3000の英霊が舞い戻り、強化外骨格「零」復活。移動要塞G・ガランとなった城は強化外骨格/零式防衛術/戦術鬼の発祥の地/中国大陸はハルビン某所へと向かいます。そこが覚悟と散、決戦の地になります。

その名も血涙島。

到着した島には何故か覚悟と散の祖父にして零式防衛術の創始者/葉隠四郎の姿が。四郎の引き連れている瞬殺無音部隊、頭が骸骨なのでこれを読んだ段階では四郎は霊体かと思っていたんですが、実体です。第ニ次大戦時から生き続けていたというコトになります。

 強化外骨格「霞」着装前に、影成が覚悟の動き/零式防衛術をトレースして散と模擬戦。模擬戦っていっても影成、これで死にますけど。覚悟も父のイメージと手合わせをし、決戦に備えます。

 そしていよいよ最後の闘いが開始。ここで挿入される散の必殺技/螺旋、覚悟の必殺技/因果、この二つに関する過去エピソードが印象的。螺旋はマッハ突き、因果は合気のような感じで。

○この巻の箴言

「威力は先方が備えていれば良い!」「自らの威力が自らの国を滅ぼすなり!」「これ兵法の極意なり!」


●「覚悟のススメ」10巻

 覚悟と散の直接対決開始。

 様子見のジャブ的小競り合いなど一切ない、両者一撃必滅の奥義のみで勝負。まるで花山薫同士の戦いです。

 そして後半にていよいよ明らかにされる強化外骨格「霞」の謎。霞に宿る霊魂は他国の兵士ではなく、一人の日本人女性/犬養冥の怨霊でした。他の強化外骨格とは異なり、強化外骨格の大将とすべく「霞」の内部生体組織に使われたのは最高の素材、無垢なるたった1体の素材。それは1歳の乳飲み子である犬養玉太郎。愛児を犠牲にされた母/冥の怒り、怨みが取り憑いたのが「霞」という強化外骨格の正体。

 そして葉隠散は着装に失敗し、14歳の時に死んでいました。散を拒んだ「霞(冥)」の人間への憎悪を理解し、人であるコトをやめ、冥との血盟の果てに着装完了。この辺、今まで漠然としていた散の狂気がようやく解説されスッキリします。

 散と冥の哀しみを知った覚悟は散の最終滅技/両手螺旋を前にノーガード。両手螺旋、まともに喰らって最終巻へ続きます。

○この巻の箴言

「愛という名の後方支援! 現人鬼にはわかるまい!」

「悪鬼なんかじゃない! 哀しみそのものじゃないか!」

「見損なうな! 策などない!」


●「覚悟のススメ」11巻

 最終巻。両手螺旋をモロに喰らった覚悟の言い残した言葉、「人間を殺めるのは これで最後にしていただきたい」。今までのどんな攻撃以上に効いた一言ながらも、散と冥は止まらない。

全ての人間はどす汚れている

見開きでそう言い放ち、大義より重きもの/星義を覚悟に喰らわせます。それでも覚悟は復活し、一撃必殺ならぬ一撃必生を放ちます。逆転が繰り返されとても熱い部分。そして、それでもまだ冥の怨念は消えません。

 四散した霞の中から奇跡的に生き延びていた玉太郎を発見し、その暴走が止まると思いきや霊体である冥は実体の玉太郎に触れるコトが出来ない。そして寒さで玉太郎が死にかけ、冥がブチ切れそうになったトコロで登場する罪子。この役ドコロが素晴らしい。この巻前半は内容が濃く、キャラクターも上手く使い切ってる感じです。

 後半は、大戦時より生き続けていた葉隠四郎が新帝国設立の野望に向けて動き出します。この葉隠四郎はどう物語に絡めるのか全く見えていなかったのですが、覚悟と散、そして歴史にとって共通の敵としてこの作品をどうにか纏める存在になりました。ラスボスに位置しながらもかなりチープな役ドコロで退場。

 最後は大団円。どんなにベタで御都合主義に着地しようとも、この「覚悟のススメ」という作品はこのラスト以外考えられないです。最高。

○この巻の箴言

「散の心はそれ以上に痛んでおるのだ! おまえが手を差しのべなくてどうする!」

「慈悲の目に 憎しと思う人あらじ 科(とが)のあるをば なほも哀れめ」

「『カラスは黒い』という命題をくつがえすには 何千何万何億の中にたった一羽 白い翼のものがいればよい!」


「蛮勇引力」1巻

 主人公に由比正雪。とは言っても未来型世界観を舞台にいつもの山口節が展開される漢(おとこ)漫画。主人公、ネーミングから策士を思わせますが、卑劣な戦闘方法をとるわけもなく真正面からぶつかる山口造型の主人公。あえて山口的異質感を見い出すならロンゲでしょうか。これに関しても『長い髪は大気の流れを孕んでそよぎ 見えぬものの動きさえ教えてくれる』などと戦いに身を置く存在としてアドバンテージの理由付けがされてましたが。

 石原が机を叩き割るシーンで何故か隻眼になっています。戦闘モードだとそうなるのかと思ったら別にそうでもなかったし。単なる描きミスなのかなあ。機械に頼らず生身で生きるのをモットーとしてる正雪が石原戦でジェット靴使ってたのは妙な感じがしました。この辺りは、後の巻で、手作りとか本物嗜好とかそういう伝統を重んじようという感じで『手軽/便利』と対比付けられていますが。ちょっと「おせん」っぽいかな。

 羽賀戦の『勘』って台詞がカッコいい。ところで金井半兵衛、最初は女設定だったんじゃないのかなあ? マツゲビシビシしてるし正雪にぶつかったシーンも顔を打っただけじゃなく照れで赤い気もする。


「蛮勇引力」2巻

 作品内で主人公/正雪のライバル的存在になる伊豆が本格始動。やすらぎ区なる場所へ正雪、金井、銀狐、歩は移動するコトに。ネーミングが将棋の駒になってます。正雪は生きざまとして香車もしくは成り飛車(龍)に例えられてますが、この将棋をモチーフにするってのを最初から念頭にあったら別の名前になってたのかなあ。

 歩をはじめ女性キャラのサービスカットが多いんですが、山口絵はそそらないですね。作者的にエロっちい絵を描きたくてしょうがないって感じですが。まあ、その気持ちは分かる。

 神都を滅ぼそうとする正雪の思いのルーツが判明。と同時に徳川惑星と由比入鹿の間に生まれたのが正雪であると読者にも明かされます。倒すべき最後の敵が父ってのはもうベタベタな設定ですが、そこがまた山口的。


「蛮勇引力」3巻

 やすらぎ区での松平伊豆守との闘いがメイン。この巻では正雪の味方として元原子力決死隊/丸橋忠弥が登場。正雪が成り飛車ならこいつは成り角がイメージ。ビジュアル的には忠弥のほうが主人公っぽいです。ゴリラ扱いですが。

 伊豆戦は意外な決着を見せます。正雪が徳川惑星のDNAを有してるが故、伊豆の攻撃が徳川グループへの謀反行為と看做されほとんど自滅敗北。この戦いは結構意表を衝かれました。頭を回収されたので伊豆との最終戦は4巻へ。復活した伊豆、保護システムを自力で取り出して正雪を殺す気満々です。

 性交シーンは連載されてた時時期的にバキSAGAと被ってたような覚えがあります。好きな人と愛ゆえにやりたいという流れもバキSAGA的です。何かかなり唐突で作者が描きたかっただけに思えました。もちろんこの作者の描く女体は萌えません。


「蛮勇引力」4巻

 最終巻。前半は松平伊豆守との再戦。やすらぎ区では演説用のボディでしたが今回は戦闘用『銀河』。この戦いはストレートながらも将棋的な描写が多くて熱い。駒が足りないのを知って全て受ける伊豆、その陥落時/ラストの語りもベタながら熱い。いやベタな熱さこそが山口作品の味の一つです。

 後半は徳川惑星戦。このバトルもえらくカッコイイんですが言い回しがもう宗教的なヤバさすら醸し出してて微妙な領域に突入しています。結構駆け足っぽいスピードで展開されるこのラスボス戦、再読してみてまあこれぐらいが丁度いいかも、と思いました。この漫画のメインの思想対決で、やはり燃えます。

 最後は随分とあっけないエンドです。3巻で出てきたコロナモードの中曽根まりはその場限りの演出だったのかなあ。戦闘の伏線だったと思うのですが、きっと大人の事情があったのかも。それでもこの「蛮勇引力」全4巻、コンパクトに纏まりつつ充分完了している作品です。


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