荒木飛呂彦


●「魔少年ビーティー」(集英社文庫)

 荒木飛呂彦の初週刊連載作品。

 荒木飛呂彦作品は各作品毎に培ったノウハウが結果的に全て「ジョジョ」という大河へと集約されるんですが、この作品「魔少年ビーティー」の場合、知力戦という面がその片鱗を見せてます。見せてますっていうか実際にあとがきに作者自身が述べてる通り、この作品のテーマですね。

 あとがきで作者は当作品を「シャーロック・ホームズへのオマージュ的な作品」と語っています。何となく魔太郎チックな部分もあります。「くらわしてやらねばならん! 然るべき酬いを!」なんてセリフからそんな印象を受けます。魔太郎がいじめられっコ故の復讐心から動いてるのに対して、ビーティーは精神的貴族、プライドの高さから動いている感じですが。

 これは子供だった頃には結構イヤな作品だと思いましたね(笑)。ブラックなので。何かすっきりしませんでした。意味が分からない部分もあったし。ビーティー、一応語り手である少年には心を開いてるんですが、捕らえ所がない主人公です。何つーかメルカトル鮎的。これは確かに当時の少年誌向けとは思えないキャラ作りです。今ならこんなノリの主役も許容だと思いますが。

 最後に収録されている「そばかすの不気味少年」、これは今読んでもイヤな気分になりました(笑)。そばかす少年を誤って轢いてしまったコトから始まり、その少年が家に住み着き、家族も呼んできたりでいつしかどんどんと家を乗っ取られていく話です。ストーリーのイヤさ加減もさるコトながら、家族の顔が本当にイヤな顔(絵)してます。


●「バオー来訪者」(集英社文庫)

 荒木飛呂彦作品、「魔少年ビーティー」とこの「バオー来訪者」の2冊が同時にこの集英社文庫で発売されたんですが、挟まってる栞が育朗&バオー描き下ろしです。15年ぶりに描いたコトになるんでしょうか。今の画風で描かれているので最初ジョジョかと思いました。

 この作品、数年ぶりに読んだんですが、育朗のあまりの素直さに感動しました。ピュアです。超ピュア。これは名作です。

 主人公橋沢育朗/バオー悪の組織ドレスに改良された超人で、組織から少女スミレと共に逃走、育朗抹殺の使命を受けたドレスの追っ手との闘いが繰り広げられる。こんなストーリーで、何だかアメコミのヒーローモノみたいな感じです。

 荒木飛呂彦特有の凄いポーズ妙な描き文字/擬音が本格的に始まった作品でもあります。このバオーのアイデアは後に「ジョジョ第2部」の完全体カーズに継承されてる様子。

 敵キャラもぶっとんでます。ビジュアル面でも、攻撃のアイデアでも。僕的にツボだったのはマンドリル。サルっすよ、サル。デカいサルってだけでツボ。


●「ゴージャス☆アイリン 荒木飛呂彦短編集」(JSC)

 「ゴージャス☆アイリン」2編と「魔少年ビーティー(同名単行本未収録)」、そして「バージニアによろしく」「武装ポーカー」の5編を収めた短編集。

 荒木作品では珍しい女性主人公のアイリン。近作の空条徐倫の方が、純粋に荒木飛呂彦の漫画家としての成長で、画力やキャラの掘り下げではリアルなんですが、もう見た目の好みではアイリンです。つり目にロングで色白。

荒木漫画での女性キャラベスト1です。

ただ流石に性格は凄いイヤですね。何か軽くお色気漫画にもなってるんですが、どうしてでしょうか。月刊ジャンプ掲載だったのでしょうかね。

 「わたし 残酷でしてよ」なんて感じで決め台詞をつけるなんて手法、ジョジョにも使われてます。この頃(80年代ジャンプ黄金期)は決め台詞がキャラ作りに必須だったのでしょうか。最近の漫画はあったりなかったりですね。武井宏之「仏ゾーン」のアンナの「わたし安くなくってよ」ってのはかなりアイリン入ってます。武井宏之、紙粘土で石仮面作った過去があるらしいですし、かなりの荒木フリークの様子。

 「バージニアによろしく」と「武装ポーカー」は(どうなる?どうなる?)ってノリのサスペンス感がイイ。キャラよりもストーリー先行型の作品ですね。少年漫画はとにかく(主人公の)キャラ作りで決まる、ストーリーはキャラが引っ張ていくものが多いので、ストーリーをまず考えてる感じの作品は異色です。そこが荒木飛呂彦らしさです。


●「死刑執行中脱獄進行中」(SCオールマン愛蔵版)

 「ゴージャス☆アイリン」に続く荒木飛呂彦短編集第2弾です。SCオールマン愛蔵版/A5判ケース付きという非常に豪華なもの。値段も1200円とちと高めですが、買ってしまうのがファンのサガ。12年に1冊の短編集です。

死刑執行中脱獄進行中

 処刑の為の様々な仕掛けが施された牢獄での受刑者の話。VS部屋、という設定です。次から次へと息つく間もなく仕掛けがなし崩し的に発動します。ポーズ/アクションなど荒木描写全開の作品。

ドルチ〜ダイ・ハード・ザ・キャット〜

 遭難したヨットに取り残されたネコのドルチとその飼い主/愛子雅吾の生き残りを賭けた精神戦。遭難して追い詰められた者の精神が病んでいく姿、というより最初から愛子雅吾は異常でした。

岸辺露伴は動かない〜エピソード16:懺悔室〜

 最後の「デッドマンズQ」以外の作品はどれも変格な勝負モノですね。これもまた岸辺露伴を聞き手に設定した勝負モノ。ラストに意外な逆転で勝者が明らかになるのは「武装ポーカー(第1短編集収録)」を髣髴させます。意外過ぎる結末でちょっと分かりにくいかも。

デッドマンズQ

 「岸辺露伴は動かない」同様これもまたジョジョ外伝という内容なんですが、ジョジョ世界とは少しルールの異なる幽霊ワールド。主人公は意外な男で、Qがその正体を象徴しています。露伴と並んで作者に愛されてるキャラなのかな。4部恐るべし。

 この「デッドマンズQ」は今後続編が出てもおかしくないような幕引きでした。作者、描かないでしょうけど(笑)。


●「オインゴとボインゴ兄弟大冒険」(集英社文庫)

 異様に薄くてびっくりするんですが、中身は更に薄い。後半のほうがメモ帳みたいになってます。3部作中でボインゴが持っている漫画同様白紙になってるという演出でしょうね。収録されているのも3部で描かれたもののみ。これだけ読んでも何がなんだか分からないです。そういう意味でこれはホント単なるコレクターズアイテム。購入を迷ってるなら買うのやめたほうがイイかも。税別286円はマジで高い。

 未来予知、でふと思ったのですが、「未来を知る」「過去に戻る」、この二つって何となく言葉的に正反対なんですが、『これから起こるコトを知っている』という意味では同じ強みになりますね。ジョジョにはこの「決定してる『これから』にどう立ち向かうか」というネタが結構何度か出てきてる気がします。抜き出してみると、

◆ボインゴの「トト神」
◆吉良吉影の「キラークイーン・バイツァダスト」
◆ディアボロの「キングクリムゾン・エピタフ」
◆ケンゾーの「ドラゴンズ・ドリーム」
◆ヴェルサスの「アンダーワールド」

 一番強かった印象のあるのが吉良かな。アナスイのケンゾー対策とジョリーンのヴェルサス旅客機墜落回避対策は何となく似てました。


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